夏の秘策
エアグルーヴが天に召され、もう5つの季節が過ぎ去った。
元祖・年度代表牝馬。いつの間にやら、男に不利な出世構造という不興を買う時代になっていた。
17年前、実力勝負の世界から発信されたメッセージ。
オークス-秋華賞直行のパイオニアでもある女帝の刻んだ蹄跡は、名人たちの技量に恵まれた競走生活でもある。
先を見据えた使い方は、当時あまり好まれなかった手法。恐らく、疲労回復も脚元への負担もギリギリのところだったのだろう。だから、秋華賞では骨折した。最善策をとったが、好結果には繋がらず。
主戦・武豊騎手は、その年に念願のダービー初制覇に打ってつけのパートナーを見つけ、その前の週に前祝いとしてオークス連覇で景気づけ。
でも、桜花賞と皐月賞はお互いパスしてしまい、三冠の夢を断たれた後の目一杯の大勝負。どちらかが一冠目に出ていれば、未来は別物だったのかもしれない。アレがない馬でも、ダービーには出られるわけで…。
ファインモーションとアドマイヤグルーヴの時には、明確な使い分けがあった。別の厩舎とはいえ、愛娘の仔が連覇を懸けて戦おうとしているのだ。
エリザベス女王杯とは因縁浅からぬ師の恩情と、騎手に対する敬意。
伊藤雄二という人間は、真っ直ぐに生きる信念の男である。
骨折明け2戦目に札幌記念を選択。
夏競馬に誕生した初のGⅡ戦で、再起を賭けた勝負を制した。
結局2連覇を決めて、秋への飛躍に繋げた。今よりは牡牝の力差が大きかった時代の話。
グルーヴ以上に才能のある牝馬がゴロゴロいる時代にあっても、馬を扱う人間の目に狂いがあれば、それは失敗の最大要因になってしまう。
感謝、感謝。