エプソムC -回顧-
時計は思ったよりも速かったが、マジェスティハーツが後ろを回っている映像を見て、やっぱりなと思った。
阪神や新潟でのびのび走らせても、結局は同じような作りの中京や阪神の500万を勝っただけの馬。直線は内を通ってきてマジック炸裂も期待できたわけだが、距離適性の問題ではなく、まだ地力がつききっていないのだろう。昨年同父のジャスタウェイとは2着するその過程が同じで、まさにイメージした通りにダービージョッキーは騎乗したのだが…。
残念だが、無理に使い込むよりも、得意条件ではっきりとした結果が出せるようになるまで、じっと我慢するより他はない。同厩のウインバリアシオンみたいな、何だか切ないイメージはじきに払拭できると思うが。
一方で、上手さが裏目に出て勝ち損ね続けてきたディサイファが、今回初重賞制覇を果たした。
函館の洋芝を連勝したような馬で、母父ドバイミレニアムのいいところをよく受け継いでいるのだろう。東京の長い直線でも最後まで渋とく伸びて、実績馬のマイネルラクリマを最後は突き放そうというガッツまで見せていた。
ここまで幾度となく、1番人気に推されていた馬だから、当然と言えば当然だが、前走の都大路S2着で何かを掴んだのか。
同期に恵まれる恵まれないで、ここまで結果に差が出るのが勝負の世界の厳しいところだ。
中山記念組が、先週に引き続き激走。
前述のマイネルラクリマは、近走パッとしなかったが、わざわざここまで使ってこなかった東京で、それも6歳になって初連対というのは、明らかに中山の豪華決戦4着の実績がモノを言える。
早くから期待されながら、順調に使われては来なかった関東の煩さ方が、これから最も出番の多そうな夏の中距離路線に名乗りを挙げた。充実期は、これからかもしれない。
ダークシャドウは惜しかったが、斤量差の問題よりも、東京の1800で凡走しなかった結果の方が重要。
若い頃のモタモタ感とは違って、粘り強さが身についてきた。次こそ勝ちたい。
タマモべストプレイや、新潟で復活の気配を示していた8歳ダノンヨーヨーなど、多士済々の重賞ウイナーが好走する中、唯一全く味わいがなかったのが、あの男…。
直前、サムライたちが苦汁をなめさせられた身体能力の壁。彼もまた、己自身のそれに苦しめられ続けている。寂しい限りだ。
ああ、夏模様
大雨の影響は大きく、ジャスタウェイも大分お疲れのようで…。
昔から雨の安田記念は定番。梅雨時の名物競走である。
一応、レース前に雨は上がったが、高松宮記念の時と似た極悪馬場でレースが行われることとなった。
不穏な週末。最後の最後に珍しい出来事もあった。
8日の東京11R(芝1600)と12R(ダ1600)の勝ち時計と、そのレースの1000M通過を見比べてみると、
安田記念
1:36.8<59.1>
三浦特別
1:34.1<57.2> レコード
芝にしては遅いし、ダートとしてかなり強烈なスピード競馬。
歴戦の猛者がバテバテになった直後のこと。雨上がりというのも重要なファクターだったのだろう。
オフシーズンにはよくあるのだが。夏になったのか。
6月が始まると、もう新馬の季節。
欧米並みの早いサイクルで世代交代が行われている生産体系は、賛否の分かれるところ。
が、一番になってからでないと、それが正しいと証明できないのが勝負の世界だ。
第1週目の新馬戦は、チチカステナンゴ、ショウナンカンプ、ダイワメジャーの各産駒がデビュー勝ちを決めた。
もう一戦、ややくたびれ始めた日曜・東京の新馬を制したのはストーミングホーム産駒。
賞金上位の馬を調べてみたところ、ほとんどが平坦・短距離の専門家ばかり。そういう狙いで導入した種牡馬なのだろう。
ただ、先週垂水Sを制したマコトブリジャールは例外。
芝の中距離を主戦場とし、中央場所を中心に勝ち星を重ね、オープンまでのし上がった。本質と可能性の交錯。
雨とは別に、走る気に影響を与える季節になったということか。
なら、もう夏ではないか。気づかなかった。
新馬回顧<2014-15> 1
土曜日
阪神の1600Mから今期の新馬戦がスタート。
こっちだって芝は湿っているんだぞ!という叫びが聞こえてきそうなチチカステナンゴ産駒のワンツーで、ダイワオンディーヌの仔・ケツァルテナンゴが初陣を飾った。
上がり3Fのキレはともかく、好位からの競馬で渋とい脚を伸ばすというらしい競馬。
思えば、母はダートで4勝した馬。このいかにもという競馬から勝負強い印象を受ける。
人気のスマートアローは、ディープ産駒ながらティンバーが肌という配合。だからこそ、出遅れは痛かった。
前に行ければ…、だったはずだ。
東京は極悪馬場の1400戦。こちらもいかにもの展開。
ダイワメジャー×タマモクロスという配合のマコトダッソーが先手を奪い、そのまま押し切る内容で快勝。2番人気だったが、この馬場なら人気以上に走ることは十分に読めた。
東西とも、上がりの速い競馬に向くタイプではないだろうが、いやらしい存在になりそうだ。
日曜日
土曜とは条件入れ替わって、それぞれ芝の阪神では1400戦、東京ではマイルの新馬戦が行われた。
阪神戦は、行き切ってこそのショウナンカンプの仔・ノーブルルージュが逃げ切り勝ちを収めた。
この日も1番人気のマイネルシアトルが出負け。開幕週ということもあるが、うまく流れに乗れないとちょっと辛い。
相変わらずの不良馬場だった東京は大波乱の決着。
きっと、この週にダートがないから使ってきたのだろう、ストーミングホーム産駒のシゲルケンカヤマがゴール前抜け出した。牝系は完全に砂専門といった趣で、この距離も微妙。馬場だろう。1番人気馬はそのせいもあって16着。
安田記念 -回顧-
普通は交わせないはずなのに、それでも交わしてしまったことの意味。
圧倒的なハナ差勝ちだ。
立場があるからこそ、下手なことはできない。
15年前の有馬記念では、まさかの出来事もあったくらいだ。
GⅠを勝つと、結構派手なガッツポーズをする人だから、確実に勝っていることがわかってから歓声に応えたかった、というわけではない。
みんなでこの勝利の素晴らしさを共感することが、凱旋レースを制した時に一番大切なのだ。
それにしても、破壊的な強さである。
何があっても人気になる馬が体現した、何があっても前を捕える闘争心。全ての面で、2着コンビを上回っていた。
騎手の腕という点で、変な乗り方をすることがなければこの結果は推察できたのだが、想像以上にタフなコンディションで、誰でも音を上げてしまうような厳しい展開だったにもかかわらず、奇跡の復活を果たしたヒーローを、寸前のところで悲劇の証人にさせてしまうドラマチックさ。
「最後は頂いていくよ」
競り落とす時の憎たらしいまでの強さ。きっと世界中で今は、ジャスタウェイにしかできない芸当であろう。怖いくらいに強い。
彼のそんな心のうちが見られたから、善臣騎手もさぞかし、ホッとしたことだろう。
あれほどの馬でもハナ差でしか勝てない。そういう向きもあるかもしれないが、
「テイエムオペラオーがそうだったじゃないか」
悲劇のロージングランの翌年に見た、衝撃の直線・冒険活劇。勝っている馬にしかできない芸当に歴史の教訓を見た。
「強いものは強い」
表現はよろしくないが、ジャスタウェイ凱旋ランのダシに使われてしまったグランプリボスの底知れぬ活力には、改めて敬服させられた。
どこまでいっても追いつかれないはずの競馬…。
東京マイルの法則は、マイルが得意な馬は、条件さえ整えば必ず復活する。ブラックホークもアドマイヤコジーンも、スーパーホーネットだってそう。
ただ、他にももっと重馬場適性のある馬はいたはず。
GⅠは適性だけでは勝てない。だから、価値があるのだ。
そうなってくると、勝っている勝っていないの差が今週も出たということか。
未来に繋がる大いなる敗戦にしてもらいたい。
強い馬に今度乗ったら、誰にも渡さないという気概を、結果を残して見せてもらいたい。
皇成の春は近い。
春のクラシック回顧
クラシックだけはまともであってほしいと思っていても、結局ドラマチックになっていくものだから、個性派が台頭することになる。少なくとも、牝馬路線はそのパターンに。
史上最高レベルの牝馬戦線。中心が2歳女王ではないことはままあるが、途中から候補が登場したわけでもないから、マークすべき馬は判然としていた。
レッドリヴェールは、その点では特に、特異な才能を持った馬との戦いに特別なものを見出そうとして、春の最終戦にダービーを選んだ経緯がある。
賢明であった。それが証明されなかったことは残念ではあるが。
ライバルにそう思わせたハープスターにまつわるドラマのクライマックスは、ロンシャンでの晴れがましい姿を歴史的事件として世界中に配信する形が望ましいとされてきたが、今度は日本のファンにとっても嬉しい裏切りを期待できる状況へと変化した。
だからこそ、チューリップ賞では完敗を喫したヌーヴォレコルトは、宿命のオークス戴冠であったのだと、ちょっと信じてみたい。みんなよく頑張った。
快速型も強烈な追い込み馬もいない常識的範疇の中での決戦。
でも、軸がはっきりしていたのは牡馬路線の方だ。
「イスラボニータを巡る争い」
1勝2着1回。一番強い馬であることは証明された。
面白くないと言えばそうだろう。だから、馬券の妙味に目をつぶれば、ゴールシーンの想像はしやすかった。
唯一、ワンアンドオンリーとそれを巡る関係者のダービー熱が、少しだけ神の心を動かしただけのこと。若手騎手の益々の精進を後押しする結果であったことからも、競馬界の未来は明るい。
これもクラシックならではの教示だろう。