天皇賞(春)-回顧-
皆素晴らしい競馬を見せ、結果はフェノーメノの連覇となったが、力勝負の天皇賞を今年も見られたことを、この上なく幸せに感じる。
ただ、武器が違うと結果に大きく差が出るということが、如実に表れてしまったのも確か。
昨年よりコース取りに窮屈さはあったが、スマートに内から外へ持ち出した人馬のリズムは、追い込み勢のそれとはまったく違った意味で、GⅠを勝つに相応しいものがこの連覇コンビにはあった。
全てを受け入れ、できることをする。競馬の基本形をしっかりと体現していた。
正直、昨年よりパフォーマンスそのものは落ちていたと思う。時計も要した。でも、今年は今年で違う強さを見せてくれた。
古馬の戦い方を、復活勝利という形で示せた意味は大きい。フェノーメノを改めて、称賛したい。
さすがに、昨年のような展開になることは、今度こそ競走馬として命取りになるから無理などしないだろうけど、敢えて、この馬にこそ凱旋門賞へ…、という希望を記しておく。
昨年のフェノーメノには、ここまで巧みなコース取りで競馬できなかったはずだ。
セオリーというのは、真の大勝負でこそ遵守したいもの。
ウインバリアシオン然りゴールドシップ然り、そして、キズナもそうだったのだが、4角ではこれは差しが決まるなという予感は実現ならず。いつの時代も大外一気は決まらない。
だから、この結果を気にしないという見方もできる。
ただし、フェノーメノと違って、凱旋門賞と似たような内容に終始したキズナの
「総合力でねじ伏せる」
というテーマは、今回も持ち越しに。
最初から抱えていたジレンマを解消できなかった。己の弱点として受け入れるべきだ。
凱旋門賞というレースも、日本人の持つ先入観とは別の次元の意味で、春天のように特殊だ。
大きな舞台のステップに…。フェノーメノが示した長距離適性というよりは、長距離の高速レースへの対応力は、ズブさと同時に手に入れられる万能性の証明でもある。
完成すれば、うまく脚をためて自在に動けるようになる。
今回は、フェノーメノから学びたい。
そして、その同期ゴールドシップの無事を心から祈る。
フローラS -回顧ー
マジックタイムは休み明けだったから、あっさりがあるならイサベルの方かと思っていたのだが、双方力を出し切れなかった。春の3歳牝馬のこと。パドックで見たイサベルに、前走圧勝というオーラは感じられなかった。敗因は全てのマイナス材料であろう。
休み明け、初コース、体重減。
一族で最も成功を収めた姉ブエナビスタが、どちらかというと成長曲線が持続性のある一定しているタイプだったから、極端な体重増で成長力を示すことがない代わりに、精神的な部分の影響でもない限りは、異様に体を減らすこともないといったいい面が似ているのだろう。
サングレアルは新馬もそうだったが、こんな馬が人気になって大丈夫なのか?という、か弱さが前面に出た小さな体をしている。
もし新馬と今回で違うものがあるとすれば、マイナス材料が多かった割に姉のような他をまるで意識しない神経の図太さが身についていたように見えたところか。
走破時計が前回より速くなった分、上がりは競馬の印象と違い、時計を縮めた分だけ遅くなった。快時計に向かない性質は一族の共通課題だから仕方ない。
それはオークスまでなら大丈夫だろう。ただ、次も勝ちきれるようなインパクトを求めるのは流石に厳しい。キャリアがあまりに少なすぎる。衆目の2番手当確か。
そんなうら若き少女を駆った岩田騎手は、終始目前にマッジクタイムを見据えて、思い通りの追い出しから、最後は大外に持ち出していた。直前の出来事も影響あり。だから、快勝ともいえる。
そのマークされた側のマジックタイム。
直前のレースを勝った杉原騎手は、次はマジックタイムを心中複雑な中検量室から見るはずだったが、何の因果かかつてのお手馬が手元に戻ってきた。
レースは卒なく乗れた。が、最後に止まってしまった。距離は長く、またレコード決着も休み明けでは厳しかったということか。
騎手は敗因ではない。
サングレアルと小差だったブランネージュや、桃色帽のマイネオーラムも距離と格に目途が立った。マジックタイムだって、叩かれて次がスローでも折り合えればまだわからない。
この組は、じっくり見直したい。
第一冠回顧
超3歳牝馬によるリターンマッチ。
勝負を制した陣営は凱旋門賞参戦を明言。準備すべきことは決まった。勝つイメージで行きたい。
ただ不安も。あの脚のせいで今後の道程で、またレース中でのアクシデントへの懸念は燻り続けるだろう。でも、新潟の結果が桜と直結したわけだし、今は騒ぎ立てず静観したい。
時計の壁に立ち向かいステイゴールドの進化を体現するレッドリヴェール。
叩いてこそのイメージを、全身バネのスマートボディで破壊。
函館の反動がいつ…。普通じゃないから、違う不安も生まれる。
ヌーヴォレコルトは次も期待できそうだが、それ以下には…。
桜花賞組から勝負圏内の穴馬を見つけるのは難しい。無論、馬券とは別なわけだが。
平穏にして、納得のゴールシーンとなった皐月賞。共同通信杯と弥生賞の勝ち馬が好走したから、穴党に出番はなし。桜を自重して、荒れ馬場への期待も前週から裏切られ…。淀は絶対嵐になれ!
オークス同様ダービー路線も勝負になりそうな馬と、精々着拾いに止まりそうな馬が判然としてきた。
トーセンスターダムが高馬の障壁にぶちあたり、アジアエクスプレスが当面、芝参戦を見合わせそうな情勢。
1、2着馬は皐月賞の条件に対してベストパフォーマンスを見せたが、同時に総合力も示しているから外的要因以外でのダービー凡走は考えにくい。きかん坊のヴィクトリー以外は、大概掲示板に。プレイアンドリアルも怖くなった。
オークスが見える桜花賞と、ダービーはまた別となりそうだった皐月賞。
事前に分かっていたこと。故に、オッズも結果も妥当だった。
この一冠目に、異常性を見出すこと自体無駄だったか。次だ。
皐月賞 -回顧ー
至極の名勝負の予感も、坂上で完全に決着がついた。
フジキセキ、蛯名正義、栗田博憲。共同通信杯だけなら人気に応えて不思議じゃない三者の共通課題は、快勝という思わぬ結果で大団円。
初、初、初。
フジキセキ産駒がカメハメハ産駒を完膚無きにまで打ち負かした。今回は格の差もあった程。
配合はスピード型も、快速型以外の今の馬は本質が似たり寄ったり。個性を見極めたい。
皐月賞制覇で三冠ジョッキーに大手をかけた鞍上は、次回の前掛かりの大勝負で人生最大のプレシャーと戦う。凱旋門賞とは違う。やはりダービーはステータスだ。
クラシックは初めての栗田師。
雨の高松宮記念を制したシンコウフォレスト以来のGⅠ勝利。ヤマニンゼファーを筆頭に、晩成型の活躍馬が多かった厩舎の傾向は、巡り合わせもあってのこと。
タレンティドガールで女王杯は勝っているが、牡馬クラシックは格別だ。
ただ、今回の主役は馬。
蛯名騎手が、新馬戦以来一番折り合ったというコメントを残したように、前走の共同通信杯みたいに内で抑え込むのに少し苦労した姿とはまるで別の馬。
結果、これが大きく影響する。
トゥザワールドやトーセンスターダムが勝負をかけた好位付けを敢行し、それを見るように平均より少し緩いウインフルブルームの作り出す流れに乗り、直線では17頭を制圧。
今までと違う競馬では、違う側面が出てきやすい。皐月賞の設定は合っていたようだ。
それと最後併せたトゥザワールドは、思われているほど器用ではない。
中山でこれ以上は…。終いの使い方は、母と同様結構な難題だ。
トーセンも少し残念。ローテーションに狙いがはっきり表れていたから、皐月賞対策は何もなかったはず。
池江師にしてはチグハグ。勝負の世界は厳しい。
アジアエクスプレスに今器用さを求めては酷だろう。彼なりの走りはできていたと思うし、体もできていた。
ダービーは…。この世代は、優等生タイプは少ないが、だからってとんでもない武器があるわけでもない。
ワンアンドオンリーが気にならない人はいないだろうから、逆に次も前か?
砂の国の鏡
重い結果だと思う。
必然と滞留。
ジャスタウェイは、元より天皇賞の強烈な競馬と、到底対応不可能と思われた中山内回りコースを前回クリアしたことで、本番でも好走することは容易に想像できた。
血統構成だけ見ても、彼がアーリントンCで天皇賞の予告編を見せていたことの方が、むしろ今では不思議なくらいだ。
ジェンティルドンナは、年々タフさを備えた大人の馬に成長していった。
とはいえ、彼女は3歳春の時点で基本能力を全て示していた。
オプションを競馬を使って増やしていき、ウオッカのような走りで待望の海外GⅠ制覇へと繋げた。
日本馬には晩成型が多い。
サンデーサイレンスは平均的かつ理想的な成長曲線を描く馬を数多く生み出したが、幾分奥手の配合相手(牝系)との相性が抜群であったことも、大成功の要因であった。
この結果から、格を守る立場にある競馬界の中心的存在だという認識を、ファンも関係者も持たねばならなくなった。我々には、誇りを持って競馬をする義務がある。
日本の大型馬のジレンマ。
スプリンターとしては、決して大型ではなかったロードカナロアの成功。
タイキシャトルやデルタブルースとの違い。
スピード型ではなく鈍重なタイプがダートを走っている状況が、今も変わっていないということだろう。
結果、芝での実績やらダートでの安定感やらが、オールウェザーでは全く無意味なものになってしまった。
ダートのスピード競馬で足元を見られた結果は、本番での惨敗を見事なまでに明示していたのだ。
自身の認識の甘さも、ここは真摯に受け止めねばならない。強さと同時に速さも示していないと、万能性を問われた時は脆い。