血視点⑦ ハープスター
凱旋門賞制覇の可能性についてだが、少なくとも適性はあると思う。
唯一の欠点とされるのが母父ファルブラヴの存在。牝馬らしいしなやかなフォルムではなく、むしろファルブラヴの代表産駒たちの成功例から見る共通項が、ある意味でスピード競馬への対応力を強く支持するようなここまでの結果ではある。
ただ、完全欧州型の血統構成は、ノーザンダンサーの継続クロスによって強く結び付けられ、また上がりの勝負に向く差し脚自慢のディープインパクトとトニービンの存在は、このスーパーヒロインを語る上で欠かすことはできない。
祖母ベガを形作った父のトニービンと、芝適性以外の部分を補完する主要素たる母父ノーザンダンサーとの成功配合は、トニービンの母父としてなど、裏方仕事に向く性質を暗示している。
また、配合上のキーファクターとなるノーザンダンサーと父ディープインパクトとの関係では、自身に含まれるノーザンダンサーが配合相手の中にあるそれとのクロスによって、ジェンティルドンナやダービー馬2頭輩出という結果を導き出した。
継続・多重クロスは薄くても意味がある。5×(4×4)。
母の代では3×3と強烈なインブリードを施されていたが、1代経ることで適正なポジションに落ち着き、仔がディープの牝駒として生を受けると、前記全てのチャンピオン距離覇者の血は完全に覚醒した。
怪我の心配は確かにある。
だが、この馬の性質を見ていくと、その懸念は日本での多頭数における高速競馬に対し、もう別れを告げるべきシグナルのように思えてならない。
彼女のためを思うなら、そんな発想も存外筋違いと限らないだろう。
チューリップ→桜
近年の桜花賞の歴史は、チューリップ賞惜敗組巻き返しの歴史でもある。
ジェンティルドンナ
名牝の時代を締める存在なのか、はたまた牝馬の時代を継承する1頭なのか。
そんな彼女を強くなるきっかけになったのが、いいメンバーが揃ったチューリップ賞。
ハナズゴールに瞬く間に突き放され、ここは叩き台だったジェンティルは4着。
勝ち馬が回避し、2着馬は距離不安のある中での再戦。
結果、タフな馬場で格の違いを見せる形で快勝。ライバル関係もガラリと一変した。
アパパネ・スティルインラブ
こちらも三冠牝馬。
チューリップ賞2着の共通項。
本命ハンターにしてやられたこともあり、似ている点だらけ。
妙に気になるライバルがいたのも同じ。
桜花賞は、時計もレースぶりも完璧。
何で負けたのか?それは桜花賞のために、ということでいいのだろう。
ニシノフラワー・ファレノプシス
乗り替わりと一変。馬体重もミソ。
ファレノプシスは、チューリップ賞に-10kgで参戦も4着。初めての敗戦を喫する。
ニシノフラワーは、負けると誰も思っていなかったが、結果はアドラーブルに完敗。
指定オープン時代には珍しい巻き返し劇と-12kgの究極の仕上げが、桜花賞激闘史に刻み込まれた。
騎手が替わったからこそ、秋以降も活躍できた。少女の可憐な姿の裏に、勝利への執念が見え隠れする。
チューリップ賞と桜花賞を連勝した馬は、GⅢ昇格後20年で僅か2頭。巻き返した馬が9頭もいるから難儀だ。おまけに、その2頭は2歳女王だった。
ここで連勝すると、もう一冠セットでついてくる。
ハープスターの快走は、遠征計画をより現実的にさせる結果となる。
天皇賞(春)展望
キズナは王道路線を選択。豪華メンバーの揃った4歳緒戦は半年ぶりの実戦も、陣営から、
「何で2番人気だったの?(笑)」
とウイットに富んだコメントまで飛び出し、不安は杞憂に終わった。
ゴールドシップやウインバリアシオンも人気に応えた現状は、今後のチャンピオン路線に極めて明るい展望を期待させるものがあるが、有力馬全てが追い込みタイプというのは大きな不安材料。
盾占いは、案外ジョーカー探しの側面を秘める。
過去10年で、血統的要因もあるだろうが、3角で出走頭数の半分より上の通過順で馬券圏内に入っていた馬は何頭かいるが、勝ち切るには時計や少頭数などの条件が必須。20年に範囲を拡大してみても、納得の時計で勝ち切ったのはマヤノトップガンのみ。
もちろん、少頭数ならばそれはあってないようなものだが、道悪等のアシストがなければ、追い込みきれない。
トップガンの走っていた頃より、下位評価の馬のスピード能力はずっと向上している。
また、ディープインパクトが勝って以降の勝ち時計の推移をざっとまとめると、走破時計は3:14.5以上でないと、良馬場の平均時計にさえ及ばない。
ディープの傑作ともいうべき存在が、その常識を打破する可能性はあるが、父は3角でなんと4番手であった。
キズナは時計の速い競馬では、存外目立った実績がない。
粗探しは百も承知も、穴は先行しそうなタイプがいいだろう。
ならば、距離適性よりも器用さなり、時計勝負への強さが鍵。
時計のある馬に拘る手もあるか。
一応、アンコイルド、サトノノブレス、トウカイパラダイス辺りがオッズ相応で狙い目となるだろうが、頭までは…。
最後の一花 ラインクラフト(後)
変則二冠達成から4か月。
夏を越して彼女に突き付けられた、成長と距離という課題。
エアメサイアとの激闘から始まった苦闘のシーズン。
掛かった。仕掛けが難しかった。
エピファネイアとキズナの構図と同じ。
2戦2敗。春は相手にもしなかったのに、距離という壁は、スケール感の差だけでは乗り越えられなかった。
得意のマイルで復活を目論んだマイルCS。
層の厚い4歳勢を中心に好メンバーが揃い、レースレコードで決着。絶対王者・デュランダルに引退を決意させた一戦。3着と健闘も、人気を上回る結果とはならなかった。
極めつけは、最後の12月開催・阪神牝馬S。逃げて失速…。断然人気を裏切った。
勝ったのはユタカ&Aグルーヴ。いいペースメーカーになってしまった。
つい先日とは真逆…。
休んで変わる何かもある。早熟性だけは否定せねば。
スプリント戦の高松宮記念から復帰。
落ち着いた流れから、直線いい脚を使って伸びるも前を捕えきれず。
なら1400で。
勝った。それもエアメサイアに。
自分の庭では負けられない。
これでヴィクトリアマイルは自分のもの!とはいかず。
桜花賞馬は桜花賞馬でも…。
牝馬の復活には時間がかかる。ダンスにはダンスの苦闘がある。
しかし…。
夏の休養がみんなにとって永遠の別れになった。
管理した瀬戸内調教師は、タフに馬を使い込む傾向があった。
最後に勝った牝馬Sも中一週。
しかし、使い込んだ馬をことごとく復活させたのもまた事実。オグリ然り、ネオも然り。
永遠の逃避行。謎は謎のままにしておくのもいい。
ただ、エピファネイアのライバルはクラフトの仔がよかったな、とは思う。
私の嫌いなオルフェ
今週末行われる産経大阪杯の昨年の勝者は、天才のようで天才ではないあの三冠馬。
トライアルまで1勝の三冠馬なんて、クリフジしかいない。春から急に強くなることはあっても、スプリングSを勝つまではクラシック本戦出走も微妙なところにいた馬が、そこから変則皐月賞を制して…。つい3年前のこと。どうにも腑に落ちない何かがあるオルフェーヴル。
本質解明には時間を要する。
ロンシャンでの必然と苦悩の戦記をワンセット2度ずつ、世界の競馬人に紹介したオルフェ・フレンチキャンペーン。
ミスターフォア賞、雨男、騎手をも見下す無頼派…。個性派であると同時に、100点満点の競馬も少なかった。
阪神・中山巧者で、グランプリ大将の異名も陰ながら拝命した不思議な三冠馬は、理不尽な結果をもたらす可能性のある競馬で、その才能をすこぶる発揮するのであった。
3戦3勝。グランプリと称されるレースではパーフェクトの戦績。
4戦3勝のグラスワンダーよりも適性を感じたし、スピードシンボリの4年連続の有馬記念上位入線に勝るとも劣らぬ3、5歳時の強烈なパフォーマンス。
そのすべてのレースが、前走と最短中7週開いていた。フランスのグランプリで不発の理由がないわけではない。
思えば、休み明けはあの仁川の暴走以外全勝。
それだって、彼の意思を汲み取ってさえあげられたら…。
その幻の圧勝劇が、産駒への希望へと繋がる。
彼が持つ絶対能力は、もしや今の競走馬の身体構造では体現しきれなかったのか。
その本質を知ることができなかったから、全部好きになれずそこは嫌いになった。
謎さえ解ければ。でも、まだ3年勉強できる。