オルフェーヴル再考
異能の三冠馬。
しかし、三冠馬という尺度を用いると少し異様さは和らぐ。
高速馬場での不本意すぎる競馬は、空前絶後の不可解な敗戦でもあった。
裏を返すと、坂も雨もあまりに気にならない男。大舞台ではことごとく雨に祟られ、2400戦が得意だったのかどうか判然としないまま引退。
芝2400Mでは、
<4・3・0・0>
良馬場は2回。本当に得意だったら、あと2勝くらい上積み出来ていただろうが。
音を上げそうな時にこそ、この馬の反逆的な闘争心に火がつく。曲者に非ず。名馬に共通する特異性だ。
だから、高速決着に向かなかった。
名馬というのは、得てして時代の潮流に逆らうアンチテーゼのようなキャンペーンを展開する。
京都の常識を打ち破ったのは三冠馬で、翌年誕生した不敗の三冠馬にセオリーの根拠を証明させてしまい、京都で負けた。
想像の世界を具現化できる馬には、真理を揺るがす力が備わっているものだ。
それにしても、あの阪神大賞典後に5勝とは、もはや奇怪ですらある。
言葉は悪いが、
「天災の寵児」
程度に思っていたのに、天才ぶりはむしろ古馬になってから発揮された。
振り返ってみても、100点の競馬というのは産経大阪杯くらいだった。
それだって、ムチを入れればもっと着差を…、といかないのも、強烈な反発力を持つが故。
此奴の100点は、他の馬で言うところの120点に相当する。
有馬記念は2勝ともどんな馬にも負けない200点くらいの走りだった。
オルフェーヴルにしか適用できない尺度。名馬の名馬たる所以を如何なく発揮した。
血統論に踏み込むと話が延々続いて、迷宮に入ってしまう。今日はこの辺で。
春の匂い
不思議な天候の下、季節を先取りというか春の椿事が早くも波紋を呼んでいる。
関東の仕事人が、国内最高クラスの重賞競走でやりたい放題。
コパノリッキーにびっくり。デスぺラードが逃げるなんて。
最強牝馬やダート王らが屈した正攻法という罠は、波乱を起こした。
この流れには、おまけもついている。
フェイムゲーム、トウケイヘイロー、そしてリアルインパクト。(笑)
初春の3大出遅れに遭遇したファンたちは、何の因果かと余計な勘繰りを始めるのであった。神の悪戯に違いない。
春が来るとまた中山が始まる。するとやっぱりというか、2回中山の鬼・横山典弘が開眼した。
1回東京開催終了までにその年重賞を勝っていていたのは、09年以降で4回。その際、この開催で必ず重賞を勝っていて、去年と続けて今年も複数タイトルを獲得している。
まあこれだけの騎手だから、特段不思議な傾向でもないのだが、近10年でAJCC4勝という偉業の裏で、その内3年は前記の傾向に倣い、この季節に重賞を勝っている。
当人は、今いい感じくらいにしか思っていないだろうが、弥生賞を勝ち損ねたことに見ている側の方が、妙に感傷的になってしまう有様。痛快だ。
ドラマチックステージ・中山1800のメッカ。
マイネヌーヴェル、マティリアルに代表される人気馬の勝利にさえ謎の残る、異質の追憶。
根拠を示すのも困難。何せ、レースは生き物である。今年も波乱が起きそうな予感。
「デスぺラード」後の関西の競馬が平穏だから、今年の関東圏の競馬がより異様に映ってしまう。
もうあれから3年。明日への希望を各々心の中で思い巡らせていると、また春がやってきた。
最後の一花 ヤマニンシュクル(後)
エリザベス女王杯は4着。とはいえ、スイ-プトウショウと戦ってから1年1か月後の戦列復帰初戦。
その間、戦績でも後れをとったライバルは、スローペースをものともせず、いつもようにゴール前で先行馬を捉え、GⅠ3勝目をあげる。ただ、彼女にとってもこれが最後のGⅠタイトルとなった。
ヤマニンシュクルは、そんな1強の競馬でしっかり存在感を示した4着。
サクラスターオーは、菊花賞を皐月賞からの直行で制し、二冠馬となった。
マックイーンは新馬を含め、休み明けで7戦6勝。芝は5戦全勝だった。
東京とサンタアニタの休み明けで、信じられないような敗戦を喫した祖父ルドルフとて、セントライト記念のレコード勝ちや、逃げ切り楽勝の日経賞がある。
10か月以上の休み明け2戦2勝の父テイオーも然り。
長期休養明けでやたらと強いパーソロン系。
ここでも血のしがらみが、快走をアシストした。
冬のGⅢに2度挑むも、凡走を繰り返すうちに春になった。
中山牝馬S。1番人気、トップタイのハンデ56。1着。押し出された1番人気ながら、外から伸びてきた末脚は、
まさにGⅠ馬のそれであった。
しかし、GⅠでは苦戦を強いられ、得意なはずの北海道でも勝ち切れず。
最後は、2つ下の3歳女王に自由に走ることさえ許されず、脚を傷めてしまう。
鞍上に幸せをを運んできた天使は、勝利の女神にも見放されターフを去った。
辛い思いに浸る四位騎手に、しかし天使は、この日2歳のお手馬をプレゼントする。
3週後の新・阪神で爆発的な末脚を見せる、あのウオッカである。
名牝の時代は、こうして本格的な季節へと向かってゆく。
騎手論放言
中山記念で人気馬に跨った東西の名手。明暗くっきりの結果となったが、展開を読み切った大ベテランの大胆な騎乗に、改めて流石だなと唸ってしまった。
馬場状態を含めた不確定要素の多い状況で、積年の経験と技量がフルに発揮された。よって、その結果に不満を持つ者はあまりいなかった。
須貝師が、内田騎手を随分とこき下ろしたらしく、最近までその影も薄らいでいた。
同厩舎の同期は、今絶好調。それに呼応するがごとく波に乗った2人の騎手の好況とは雲泥の差。
今の競馬界に、騎手を育てようという気概はない。
この件、馬の視点から語られないのが切ない。
中山でより冴え渡る横山の手綱捌きは、最近の騎手に不足している勝負勘の鋭さによるところが大きい。
「勝ちに拘りすぎず、勝ちにいく」
その意味がわからないから、もう一度学校で…、とはいかないのが勝負の世界。
考えた分だけ、実入りに差が出る商売である。
ユタカマジックとはご無沙汰だったが、フェルメッツアを駆る姿は、翌週の人気にも影響を与えた。
同じレースでは、上り調子の岩田の十八番・インのポケット作戦が、3歳馬には貴重な権利取りと賞金加算に繋がった。
武器の見せ方、違いを見せつける技。互いにシーズン開始の準備が着々と進んでいる。
川田将雅は、今まさに瀬戸際に立たされている。
ハープスターでも、またトゥザワールドでも失敗があった。
勝てて良かった。弥生賞後のコメントが少し寂しかった。
例え交わされたとしても、一番強い競馬をしていたのは、間違いなくトゥザワールドだ。
敗戦の持つ意味が変わったことを理解した時、彼は真のトップジョッキーだと認知される。
POG反省会
POGを特集した1年前の競馬誌を読み返してみた。現在クラシック有力候補の写真も当然あったが、見た目と結果が伴わないのが常。
デビュー前の馬が10頭近く小さい写真に加え、その成長過程や特長が30字程記された小冊子の中では、あのハープスターでさえ2次候補の1頭に過ぎなかった。
幾らか丸みを帯びたラインからは、牝馬らしさよりは距離耐性の不安が見受けられ、マイラーの可能性をほのめかす育成者のコメントまであった。
母父はファルブラヴ。納得だった。
でも、松田博資厩舎の活躍馬には見た目の地味な馬が多い。
アドマイヤムーンもそう。決め手のありそうな体でクラシックを戦ったが、見せ場止まり。
古馬になってGⅠを勝てるようになった頃は、馬体の迫力は増したが、返ってキレる馬という印象は薄らいでいた。
ハープスターとそんなムーンの完成期の姿がダブる。
距離不安がなくなれば、もう怖いものなどない。
また、後の2歳女王の個別紹介はなく、2011年産馬の父親別産駒一覧の中に小さくレッドリヴェールという文字を見つけた。
ステイゴールド産駒の見極めは、実に難しい。
モンドシャルナは、この一族特有のバネを感じさせたが、今2勝目を挙げるのに四苦八苦。
そのすぐ下には、トゥザワールドの気品あふれる姿が映っていた。
ロゴタイプの半妹はパワフルさを覗かせるも、ズブさの方が先行して未勝利のまま。
前者には騙されず能力差を捉えられたが、後者にはまんまと騙された。(笑)
何を反省すべきか。
結局は、血統の華やかをいかに無視できるか。先入観は大敵。
鬼に笑われる遥か前から予習復習に励むのが、競馬社会の春なのだ。