2歳戦総括 牝馬編
阪神JFは、真実のみが眼前に広がる結果となった。
休み明けは問題ではなく、現時点での底力=ポテンシャルという等式がレース傾向に沿った形で今年も踏襲されたから、負け組は今回に関しては完敗の構図。
各場2歳Sの勝ち馬が中心。アルテミスSの優勝馬も参戦し、積極策とは言えない朝日杯参戦を決めたファンタジーSの勝ち馬もいたが、それらは共通して各2歳Sの好走馬だった。
無敗馬3頭が、当たり前のように負けていない強みをフルに活かして、きりもみ状態の同タイム入線。
最近はプレクラシック的意味合いが強かったが、今年は単体のGⅠ戦としても大きな意味がありそうで、貴重な一戦とも言える。
敢えて物申すならば、これからはもっときついということ。
まだライバルは増える。それが、今回の負け組の一度負かしたはずの相手になるかもしれないから怖い。
それはフルゲートの大激戦が、ハイレベルの一戦だと誰の目にも明らかだったからだ。
一度でも大きなアクシデントが起きると、本番の人気に多大なる影響を及ぼす。
だから、まだ一つの結果が出ただけだとも言い切れるのだ。
ダイヤの原石がどこに埋まっているかわからない。楽しいと言えば楽しい。
非オープン勝ちの馬では、
・サングレアル
・リアルヴィーナス
・ワイレアワヒネ
らが面白いか。
勢力図を見ると、言わずもがなJF組が世代の中心。
ハープスターに勝てる方法を、レッドリヴェールが見つけたという印象。
それは、夏の印象から大きく変化しなかったことを意味する。
JF6着以下の組では、レーヴデトワール、グランシェリーらの成長に期待。
クラシックシーズンが実に待ち遠しい。
有馬血統を探る
このレースで親仔制覇を果たした和製王者の系譜は途絶え、代わりに同系のメジロマックイーンが母の父として大ブレイク。
昨年の同父産駒のワンツーは、ディープインパクトがハーツクライに敗れた05年以来。
この二つ、ステイゴールドが深く関係している。
3着が最高で、特段得意条件にも思えないから色々とその特性について考察してみたのだが、サンデーサイレンス産駒でこのレースを勝った馬は、2500M以上の重賞を他にも制していたり、洋芝のレースを勝っていた。
ハーツクライは、ここを勝った後ドバイやアスコットで結果を出した。むしろここではディープインパクトの方が例外。
今年そのディープ産駒で唯一参戦となったダノンバラードは、時計の掛かる競馬でしか走らない特性を持っている。
この系統、例外の方が買いということか。
テイエムオペラオー以来ずっとヘイルトゥリーズン系が勝ち続けている。
まあ、シンボリクリスエス以外はサンデーサイレンスの直系なのだが。かつてはダイユウサクやリードホーユーなど、渋い血統の馬も勝ち切っていた。
オグリキャップが勝った頃から、スピードタイプが本格的に台頭。
90年代はチャンピオンホースが盛り返していたが、サンデーサイレンス産駒が21世紀に有馬記念の壁を突破して以降は、時計との勝負も重要になり、33秒台の上がりも時には必要だ。
ちょっと気になるのがミスプロ系。
オグリはネイティヴダンサーの孫だったが、基本的に2500の緩急の競馬はあまり得意ではないのだろう。キングマンボ系が2着2回、後は連続3着のトゥザグローリーがいるくらい。ダービー馬回避で肩身も狭い。
有馬対策データ
・秋天、JC連対馬が全部回避というのは…
2009年のドリームジャーニー-ブエナビスタで決まったレース以来。
基本的にはありえないし、近走の古馬GⅠの実績から類推できない難しさもある。
2009年は、宝塚記念でディープスカイを返り討ちにしたかつての2歳王者が、絶対女王戴冠にも失敗して鞍上もスイッチした二冠牝馬をねじ伏せた、という内容。
その弟が出てくるわけで、繋がりがないわけではないのだが…。
ここから見えてくるのは、例え負けていたとしても前走がGⅠという馬の方が有利だということだろう。
・秋海外GⅠ参戦組が強い
タップもディープも凱旋門賞を秋緒戦に使って、日本でガンガン使われるよりは大分フレッシュだったろうと思う。
夏に使ったゼンノロブロイなどもちろん例外もいるが、帰国後も激闘を繰り返し、戦意喪失のGPのパドックが印象的だった。
柔軟な対応力が、コーナー6つの競馬に応用されるという見方もできる。
・12月に使った馬が来るパターン
去年久々に来て、その前だと3歳時のトゥザグローリーとテイエムオペラオーが3着に来たくらい。極端な追い込みが決まって、1番人気が勝ったという共通点を持つ。
フレッシュな馬には有利ではある。
月初のGⅡが前哨戦というわけではないが、今年はこの組が多く出走してくるからマークは必要だ。
オルフェーヴル、エイシンフラッシュ。
ゴールドシップも穴にはならないけど、切らない方がいいか。昨年と買い方を変えればいいだけだ。
あとは、カレンミロティック、ウインバリアシオンなどの金鯱賞組。と、これでは穴狙いにならないか。
ヴェルデグリーンは穴なら注目。
GPハナ差の激闘
知る限りで5度、全57回中8回も息を呑むようなゴールシーンで中央競馬の掉尾を飾ってきた有馬記念。
日本一のレースと呼ばれた時代から、世界一馬券の売れるレースとなった現在までの間に、このレースは常に劇的シーンを我々に提供してきた。
ヴィクトワールピサ-ブエナビスタ ’10
人気、実績、絶対能力全ての面で、ブエナビスタは断然ではあったが、必ずしもそういう馬に有利に働くレースにはならない。
ルドルフ以外のチャンピオンホースは複数回挑戦すると必ず1度は敗れている。
一方で、世界基準における底力の指標が示される傾向もある。
ブエナビスタはドバイの経験こそあったが、ヴィクトワールはこの時点で凱旋門賞経験済み。
一叩きされ、今度はブエナビスタの前でゴール。小差だったが、凱旋門賞に出た者とそうでない者の差のようにも思えた。
後に、ヴィクトワールは世界一の称号を得る。
テイエムオペラオー-メイショウドトウ ’00
グラスワンダー-スペシャルウィーク ’99
主役の主役よる主役のための競馬となった20世紀末の有馬記念。
スローであるが故に、真の底力が解放される展開に。オルフェーブルの時と同じ。
メジロパーマー-レガシーワールド ’92
イナリワン-スーパークリーク ’89
主役が消えた有馬記念。消耗戦を経て、初めて出走叶う舞台。
昔から3歳有利なのは、菊にだけ照準を絞っていたからでもある。大昔の秋の天皇賞は、今のJCの開催日に組み込まれていた。
JCが誕生し、世界基準の競馬をした直後のGP。そこで激走したトウカイテイオー、オグリキャップは…。
有馬記念の劇的シーンは、必然だったのである。
牝馬の国
競馬は牝馬に支えられているのだということを改めて認識させられた。
先週も今週も、その牝馬のレースが面白い。
今年の2歳女王に輝いたレッドリヴェールは、案外ハープスターよりバックボーンがしっかりしている。
ステイゴールドのやや不安定な性質を補完する意味において、ヘイローの母で、また5代母でもあるコスマーの4×5のクロスがよく利いている。
更に、その甥にあたるノーザンダンサーの血が3本クロスしており、まるで狙いを定めて配合されているかのような印象も受ける。
もしかすると、ステイゴールドをつけて黄金配合以上の新たな可能性を見つけ出そうとしていたのか?
エルコンドルパサーにも通ずる多重クロスの妙。
もしもこれが牡馬だったら…。母になってからの成功も十分期待できる。
ベガの孫が強烈な末脚を繰り出し、ジャスタウェイの近親にあたるフォーエバーモアは小倉のレコードホルダーを正攻法で追いつめ、あわやのシーンを演出。
その次に入ったのは、もしかしたら1600でも短いかもしれない配合の函館王者クリスマス…。
競馬はやってみないと判らない、の決定版にみたいなこのレースの掲示板は、勝ち馬の血統力が生みだした結果なのかもしれない。
愛知杯にも、ディープ牝駒の傑作・ジェンティルドンナと同じくリファールのクロスを持つスマートレイアーや06年有馬記念で連対を果たした2頭の半妹などが出走。
エリザベス女王杯も隠れた良血馬の品評会のような趣であったが、血筋が時に実績を上回る波乱を生むのは、彼女たちがいるからだ。
その血脈が日増しに繁殖入りする日本競馬界。
この名血牝馬がいるうちは、未来は安泰だ。