角居厩舎の歴史
2枠に角居厩舎の2頭。私的染め分け帽状態の不良ラストクラウン。
ワンサイドゲーム。フルーキーにしてみれば雨がどうこうよりは、現時点で力遠く及ばずの無力感が全てだろう。大差はつけられたが、6着に入った彼の未来はむしろ明るい。
デルタブルースから始まった栄光の道…、いや、ブルーイレヴンから始まった迷い道からの脱出。
それからもう10年経った。
ウオッカやヴィクトワールピサを筆頭に、怪我に苦しんだカネヒキリやアヴェンチュラもみんなGⅠ馬に。
シーザリオ、ポップロック、ディアデラノビアは不完全燃焼だったが、他にもハットトリック、トールポピー、ルーラーシップなどなど…。
角居厩舎の看板馬は、歴史の証人でもある。
500万条件の身で除外覚悟で阪神JFに登録したウオッカは、リニューアル阪神の幕開けを見事に飾ると、以降も競馬史に名を刻む快走で師に全てをもたらした。
デルタブルースにしても、当時はピンポイント参戦だった岩田騎手がスターダムにのし上がるきっかけを作り、南半球での日本馬キャンペーンの功労者となった。中東最後の砦を切り崩したのもこの厩舎の馬。
時は流れ、ウオッカの息仔を預かることで一悶着あったが、この2歳世代をきっちり育て上げることで初めてネクストドアが開かれる。前向きにいきたい。
全ての音を奏でる魔法の楽器のように、この名伯楽から多様な才能が輩出してきた。
シーザリオが帰国後どんな競馬をしていたかを体現するかのように、夢の続きを描いたエピファネイア。
必然の結末。フルーキーにも、いい経験となったはずだ。
そんな彼らの次の勝ち姿が、師の脳裏には浮かんでいる。
3歳戦総括
2冠牝馬と3頭の牡馬タイトルホルダー。対照的なクラシックロードであった。
ローブティサージュとクロフネサプライズの穴快走から始まった牝馬路線。
戦前は、コレクターアイテムとサウンドリア-ナで何の変哲もない決着になると思われていたが、前者はクラシックでは眠ったまま、後者は砂へ路線を変えそれぞれ脱落。
年が明けてクロフネサプライズが逃げ切りを決めたころ、レッドオーヴァル・メイショウマンボの紅梅S組が台頭、桜花賞ではアユサンが才能を開花させ、タフな一戦を制した。
しかし、混乱はデニムアンドルビーの出現で収まる。オークス・ローズSできっちり持ち味を出し、秋華賞までは軸馬として力を見せた。
ここでメイショウマンボの潜在能力が爆発する。底力の要求される競馬を全て好走し、完全に世代を掌握した。
今後は、秋華賞2着のスマートレイアーが一番期待できそう。デニムアンドルビーも広い馬場なら見限れない。
菊花賞も1番人気が勝ち、クラシックはエピファネイアとそのライバルという構図のまま終焉を迎えた。
ラジオNIKKEI杯組v.s.朝日杯組。まあ、エピファネイアだけ、とも言える。
古馬に勇躍挑んだ春の制覇者は、大事なところで雨に祟られ実力をフルに発揮するまでは至らなかった。
どんなに頑張ってもダメ、という競馬ではない。キズナは重馬場でなければオルフェの前にいたかも…。
それと比べ、勝手にこけそうになったりハイペースで引っ掛かったりと、春は散々だった世代の軸馬にとって菊は大団円だった。
笑えないほどの強さ。一強の菊は、菊の真理でもある。
未来は同じ道で。2000近辺で再会してほしい。
マイナー種牡馬の逆襲 ~ スズカマンボとキングヘイロー
スズカマンボとキングヘイロー
キングヘイローを思い出した。無論、カワカミプリンセスと共に。
オークス馬が、ここ5年で3勝2位入線1回。上位人気に推されれば確実に走ってくるという圧倒的優位の傾向が、今年の一戦でより顕著なものに。秋華賞と旧女王杯はまるで別物だ。
二冠牝馬の父スズカマンボは、叔父母にダンシングキー兄妹がいる。
桜花賞馬ダンスインザムードとは同じ歳。
秋の天皇賞で、お互い調子のよくない時期ではあったが直接対決をして、ダンスが3着でマンボは13着。
こんなフレーズが並んでいるからお祭り気分と行きたいところだが、勝ったのはもっと人気のないSS産駒のへヴンリーロマンス。
厳しい世界だ。
とにもかくにも、春の天皇賞を歴代4位の好時計で制し、ダービーはレースレコードの5着。
思えば、配合はサンデーサイレンス×キングマンボ。
ダービーレコードの血統的バックボーンを備え、かつGⅠも制し箔もついた。
良血馬、ハイレベル世代、大レコードの経験、そして代表産駒がオークス馬…。
ただよく似たこの2頭は、地味な存在として語られる。
クラシックを負けたチャンピオン血統が故の肩身の狭さ。
クラシックで見せ場止まりだった悔しさを、有馬記念で晴らそうとしたら2歳チャンピオンが復活した。
その後、関東遠征で重賞を連勝したが、次の春までキングヘイロー自身に春は訪れず…。
勝負弱いという印象が燻る。お互い宙ぶらりんのポジション。
そんな中、キングヘイローがマヤノリュウジンをGⅠに送り込んで、流れが来ているとも思った。
才能の見せ時を心得ているのか?
これもボンボンらしいところだろう。
脇役の血統 ハンプトン系
ハンプトン系
凱旋門賞を毎年のように盛り上げているステイゴールド産駒。そして今年はもう一頭のキズナが父の汚名を雪ぐべく、お互いリベンジマッチを旗印に、ダービーウイナーツープラトン作戦での悲願成就を目論んだのだが…。
やっぱり、ペースメーカーくらいは出さないと…。
でも、夢が遥か遠くにあるわけでもない。
ディープ親仔は、3位入線と4着。
ステイゴールドは砂漠までせっせと遠征したが、アジアの外まで出ることはなかった。
が、産駒は凱旋門賞で4戦2着3回。
出走馬は2頭。微妙だけど、やっぱり凄い。
そのステイゴールドを語る上で、ポイントとなる種牡馬がいる。
母父ディクタスだ。代表産駒は、叔父サッカーボーイ。
ノーザンテーストとの組み合わせで、この一族は毎年のように重賞級の産駒を送り込んでいる。
ディクタスはスタミナを補強する意味合いより、闘争心を引き出す影響の方が強い。
ハイぺリオン系の日本の代表馬セイウンスカイを筆頭に、ハンプトン系の継承者はアイネスフウジン、フレッシュボイス、古くはハイセイコーなど中距離戦で激しさを内に秘める性質を大舞台向きの底力によって、スピードやキレ味に転換し劇的シーンで主役を張ってきた。
時代ごとに名馬が現れるハンプトン系。
サッカーボーイは、その中で最も優秀な種牡馬となった。
サンデーサイレンスらしかぬ、異常なまでの重馬場適性は、サッカーボーイにも備わっていない性質。
ステイゴールドもまた、異質な才能の持ち主だ。
フランス発、主流偏重の疑義。
脇役に主役の華やかさや底力などは必要ないが、それ以外のところで勝たないと血を残すことすらままならない。
騎手批評(後編) ヤスとスミヨンとユタカ
ヤスとスミヨンとユタカ
この三者、今週は完敗と言える内容だった。
やれることはやった。故に、責められるいわれなどない。
ヤスは素晴らしかった。
土曜の京都で4勝も、重賞の騎乗馬が順調に使われての参戦ではなかったから、それは仕方がない。
そして何よりも、スプリンターズSに臨む姿勢、そして内心焦りのある中で無駄なく馬の走りをアシストした冷静な騎乗は、こちらも安心して見ていられた。
引退カードのチラ見せで、本来の柔和さを取り戻せたか。
これこそが主戦騎手の仕事。
彼には、もっと高みを目指してもらいたい。柔らかさがまだ足りない。
そして、凱旋門賞。
騎手は馬の能力発揮でのプラスはあっても、絶対能力を高めることはできない。
同じ三歳でも、日本馬とフランスの牝馬では成長曲線に差がある。
この敗戦は、日本の古馬参戦主義を強く肯定することにはなったが、騎手としてやれることを全部出来たユタカは、馬場を恨めしく思う気持ちを口にはしなかった。やっぱりスマートだ。
スミヨンが影のようにオルフェーヴルをエスコートしていた、いや跨らせて頂いていた姿が頭から離れない。
主戦の池添同様、彼も昨年の事があったから、この馬に乗る者は一貫して馬任せに徹した。
もし、批判するとしたら、お互いもっとリスクを取るべきだった、ということか。
「芝がもっと乾いてくれたら」くらいは言ってほしかった。
それは京都大賞典を観た後だったから。内田博幸が気になった。天皇賞と同じ。
陣営は、器用さを追い求め過ぎている。
名手には、作戦変更の権利がある。
その権利を投げ棄てたように映った好位取りつきが、何とも物悲しかった。