最強の勇者
世界最高の評価を得るまでの過程におけるターニングポイントとは?
そういえば、ジャスタウェイが中日新聞杯でもがいてた頃、日本競馬界は転換期を迎えつつあった。
同期・4歳勢のスターホースや候補たちが、今のジャスタウェイのように、主要競走や海外も含めたGⅠで素晴らしいパフォーマンスを見せていた。
また一つ年上のオルフェーヴルも、不世出の三冠馬たる所以を勝つことによって誇示して、紆余曲折はあったが、歴史的ラストランに繋げた。
2010年代の競馬シーンを彩る、大きな潮流の中にあった季節。
重賞1勝の2勝馬には、賞金不足でそれらに対抗する術さえなく…。
安田記念の翌週のエプソムC。クラレントを内目から捉え、ハナ差の勝負に持ち込むも、
「2着」
その直後、4強は3強に欠け、結果1強になったような幻を我々は堪能する。以降、それぞれはバラバラの道へ。
関屋記念、猛追も及ばずレッドスパーダの2着。マイルでもダメか。
毎日王冠も、超スローでいつもより前につけて、いつもより前にいたエイシンフラッシュに押し切られ2着。
ちょうどその夜。オルフェがトレヴにコテンパンにやられたのだ。
同じ負け、同じ2着、同じ強い馬に完敗した奇遇。
父も似たようなタイプだった。ステイゴールドとハーツクライ。
「いつになったら勝てるのだろうか」
この時、何かが乗り移ったのか?
代わって、ジャスタウェイが勇者になった。何かが入れ替わった。
敗戦の持つ意味は大きかったのだろう。
大樹の陰でひっそりと公開スパーリングをして、自信をつけていった。結果、父以上のパフォーマンスを体現する名馬へと成長できた。
オルフェも同じだ。
新種牡馬考察
今年の新種牡馬は、斜め読みを助長するアウトローが揃ったという印象がある。個性派の出現は、みんなが望んでいる。
キンシャサノキセキ<父フジキセキ・ヘイロー系>
南半球産のハンデをものともせず、NHKマイルCでも3着した。だが、高松宮記念連覇の名馬にまでなるとは思わなかった。坂も回りも騎手も全て違う条件での連覇。その価値は大きい。
気難しさがあって、距離への耐性を求めなかったのもよかったか。
プレザントコロニーとリファールの血が、どう機能するかが鍵。父はその影響が大きかったから、1600もまともに走れなかった。
母ホットプレイのタマモホットポット(牝)は期待できる。
ハービンジャー<父ダンシリ・ダンチヒ系>
キングジョージ覇者来日。昔よりは、血統の質が軽くなったこともあり、異国の馬でも本質的な差は小さくなった。
が、ノーザンダンサー系3本を主成分とする、いかにも欧州血統といった配合は、その血を好むサンデー系とは相性もいいだろうし、配合しやすい側面は認めるが、如何せん血が偏りすぎている。
ノーザンダンサーの血は、日本の強い馬にも必ず入っている。ひとまず、エピファネイアの半弟・クローディオの動向を注視したい。
ヴァーミリアンとカネヒキリも産駒がデビューする。真価はダートでこそだろうし、クラシック向きは滅多に出さないとは思うが、妙に惹かれるところもある。鈍重に見せない中型馬が出るかどうかだ。
他にもワンダースピード・ワイルドワンダーらもいて、ダート戦線は楽しみ。
ブレイクランアウトは芝専門だったが、こちらもダート向きの印象。芝の重賞級が出れば、父の名も上がる。
東京優駿 -回顧-
関東の名手が誘った名勝負。
ハーツクライとフジキセキか。
馬から飛び降りた検量室。やはり、そこは横山典弘である。雨のダービー初制覇の時とは違う。
ダービージョッキー。ライバルであり、盟友でもある正義君が感じるその絶望的な格差。勝負は平等にはできない。
同期のユタカが見事にリードしてくれて、何とも心強いと思っていたのに。前の2頭が、突如脱落…。
きっと、ノリちゃんだって、彼らが粘っていたらもっと困ってはずだ。
ああ…。悲しいけど、来年がある。気持ちはいつでも一年生。騎手はダービーの前では、ただの小僧である。
しかし、それを勝つだけで永遠を手に入れられる。こんな魔法が、他の世界にもあるとは思えない。
蛯名正義は、横山に尊敬の念を持ちつつ、それでもずっと変わらない関係性を保てるのは、その意味を深く理解しているからに違いない。
男になった、橋口弘次郎。いくら名伯楽と言われても、ダービートレーナーでなければ、虚しくもある。
言うなれば、父ハーツクライを管理し、その奥手の才能を引き出すためにルメールとこの横山を乗せ、今度は息子の大勝負に向けた采配として、同じ策を講じた妙と縁が勝因だろうか。これで、もう後ろ指をさされることもない。
そして、国分優作もダービーを明確に意識することになるのだ。
うまくなりたい。早く。
オーナーの側も、喜ばしいのは事実だが、ここは橋口先生への感謝や祝福で十分だろう。騎手とオーナーが持つ縁と運。ダービーは凄い。
イスラボニータはついてなかったが、同時に正攻法の限界を示してしまった。展開上の不利はあったが、坂で交わされていたら、差し返してももう絶対届かない。
大分バカにしていた毎日杯の勝ち馬・マイネルフロストが3着。馬券はいいとしても、岡田さん…。勝っているかどうかの差もあったか。
ユタカの勝負を賭けた好位付けに応えきれなかった高馬・トーセンスターダムのラチ激突に、厳しい戦いの一端が見て取れた。
知っているからこその積極策が、馬の120%の力を引き出すリスクを、天下の武豊が認識していないはずがない。だからこそ、持っていない馬の敗走に、妙に感傷的になってしまった。残念だ。
金で買えないダービーオーナー、である。
「普通をあきらめざるを得ない枠だった」
「普通に乗れれば、今度こそ勝てるかもしれない枠だった」
ダービー複数回制覇騎手が刻んだ81thダービー戦記。
改めて、身が引き締まる。
ダービージョッキーだから
ダービー4勝。1年前に武豊を信じなかったのは失態も同然。
ディープは当たり前として、世紀を跨いでダービーを勝ちまくった時代を知っているなら、尚更だ。
あの末脚。勝ち方を知らないと引き出せない。
ダービーで6度1番人気に推され、4勝2着2回とパーフェクト連対である不世出の名手は、日本競馬界唯一のダービーマスターと言える。
特に、GⅠ勝利7回のうち3度騎乗してしたウオッカの父であるタニノギムレットが、ダービー馬になるまでの道程は伝説的だ。
2月の末に骨折して、春のクラシック参戦は絶望視されていたが、3回京都の初日から復帰。
マイルCで再びギムレットとタッグを組むが、3着と不発。
テン乗りながら青葉賞でシンボリクリスエスに跨り、己の脅威となることを認識した上で、GⅠ連敗中にもかかわらず1番人気に応え、全てを制した。
あの表彰式の時に落ちてきた大粒の雨は、直前の海外ピンポイント参戦で体調万全を確認した、その積極的姿勢がもたらした予定調和の演出だったような気がしてならない。
もし18年ぶりのダービー制覇となっていたら…。
その前、アドマイヤベガの時も心憎い。3強対決は、3戦中唯一のワンツースリー決着。
若手騎手の高揚感を嘲笑う後方待機策で、ゴール前鋭く伸びたタイレコードウインは、前年、人間・武豊をスペシャルウィークの力により引き出された恩恵によるところが大きい。
鞭を落とすなんて…。ダービーは、ユタカ・タケの歴史でもある。
今現役のダービージョッキーは、96年以降に勝った8人だけ。
縁を最も大切にした者が、ダービーを制する。今年もこの季節がやってきた。
ダービーと血統の物語
ウオッカの偉業は、SSに先を越して「孫」がダービー勝ったことだろう。
BTの孫ではあるが、シラオキの子孫だからこその合わせ技という側面もあり、またクリフジ以来64年ぶりの牝馬制覇、トウカイテイオー以来16年ぶりとなる父内国産馬による勝利及びダービー親子制覇という歴史的事象だったことも認めるのだが、これ以上の意味は持たない。
サンデー時代の第二章開幕直前の一大スペクタクル。
前年も同牝系のメイショウサムソンが勝った。だが、もう少し古い話だ。
父超えを確信したダービーで、血統の重要性も体現したオルフェーヴル。
父父はダービー馬を6頭出し、母父メジロマックイーンの別流からは親子制覇を成し遂げたルドルフ-テイオーが輩出。
母父は、社台の異流探索中にレーダーに引っ掛かった逸材。
ノーザンテーストのクロスも成功理由だが、彼もダイナガリバーを送り込んでいる。
いい馬を作り、いい馬を買い付けてきた社台の近代史が凝縮した血統馬なのである。
信じられるディープ親子の凄さ。
ディープブリランテとキズナは、恵まれたバックボーンという点が共通しているものの、キズナはノースヒルズマネージメントの自家生産馬だ。
実は、弥生賞やスプリングSに出走し、負けていた馬のダービー制覇は、実はアドマイヤベガ以来なかった。その前がサニーブライアン。この2頭、かなり特殊。
単純にいい血統であることと、素晴らしい種牡馬の仔であること。
複雑さがないことがサンデーサイレンス産駒と同じ。
やっぱり、あの5馬身圧勝に理由を求めるしかない。
脚質もまるで正反対ということも、多様性の点で特筆すべき性質だ。