顕彰馬と遠征
オルフェーヴルが最後の有馬記念を圧勝。「芝GⅠ7勝」という近年の選定基準の傾向には適わないが、三冠の箔と合わせれば、顕彰するに相応しい馬だということは再確認できた。
いずれ、ジェンティルドンナも選ばれるだろう。三冠馬は特別だ。
凱旋門賞での惜敗の記憶がこちらも鮮明に残るエルコンドルパサーが、この世を去って11年の時を経て、ついに顕彰馬に選ばれた。
凱旋門賞にただならぬ因縁を持つ2頭が、21世紀に入ってからずっとこの制度のボーダーライン際に立たされ続ける。
思えば、海外のレースを使っている馬が、タイキシャトル以降ずっと選ばれてきた。
今年同様、10年前に特別ルールを適用して選出されたタケシバオーも結果は出せなかったが、海を渡っている。
ウオッカは渡仏叶わず、ドバイでも結果を残せなかったが、その分東京競馬場で何度も主役を張り、ついにはそこに像が立った。
今年も票数2位のブエナビスタは、父の票数を上回り続け、きっと父は選考対象から外れるのかもしれない。現制度の犠牲者となってしまうのか。
両者の父は共に、海外遠征に縁はなく。父娘の絆は、父超えで強く結束した。
ハクチカラやシンボリルドルフとその祖父スピードシンボリ。
どんなに時を経ても、日の丸のプライドを掲げた戦いが殿堂の扉を開くきっかけとなる。
今、候補は溢れかえっている。
海外のタイトルホルダーは、隔年ごとに誕生している。が、それは選出の絶対条件ではない。
ジャスタウェイさえも特別に非ず。だからこそ、強くても選ばれなくなった。
ロードカナロアだって…。
日本のGⅠは全て国際競走。故に、国内の好成績も勲章となる。
盾が怪しい
古馬チャンピオン路線の5競走は、世界に通ずる格の証明書という側面を持つ。
春の天皇賞の勝ち馬から海外遠征に成功した馬がいないので何とも言えないが、昨年の3着馬・レッドカドーは十分基準になる。年齢から上積みは望めないが、とても貴重な存在だ。
日本馬は強い。
オルフェーヴルに敗れた面々やキズナなど、今回はダービーコネクションが主軸となる競馬。
彼らは総じて差し・追い込みタイプ。多少距離に不安があっても流れに乗れさえすれば、ある程度までは我慢できる。
今回はそれに加え、鞍上のスイッチがポイント。
ゴールドシップは、4年前の勝利騎手でもあるC.ウイリアムズを鞍上に迎える。馬次第ではあるが、マイナスは今回は少ないように思う。積極策もある。
それと比べ、ウインバリアシオンの方は…。みんな頭が痛い。
時計の壁は、ほぼ全ての馬が乗り越えねばならない。
少し時計を要する馬場での実績は、むしろマイナス材料。自分から動けるかどうかも重要だ。
格のある馬が順当に来るという、長距離戦の常識はすでに破たんしている。イマイチ君救済レース。今の実態だ。
そのイマイチ君で最も強いだろうフェノーメノの叩き一変は怖い。
特殊な条件だけにリピーターも多く、なぜかそれは関東馬が多い。
関東馬全盛時代の遺産なのか。
ユタカ&キズナの信頼関係の深さを再確認する主題が衆目の一致するところならば、前に行く馬の穴狙いが最も単純な対抗策だろう。
残りの春のGⅠは、逃げ馬の質が鍵を握りそうだ。その初っ端がこの天皇賞。
ただ、逃げそうな馬の時計が足らないのが玉に傷。安易に狙えない。
読み切るのが難しい、豪華決戦となる。
オルフェーヴルへの質問
阪神大賞典で終わる、と思っていた。
前走有馬記念は異常すぎた。常識的な概念を飛び越えるパフォーマンスで古馬緒戦を制したならば、必ずや反動が出ると思ったのだ。
事後にデータを調べた。2400M以上の競馬をひたすら使われ続けると、必ずどこかで墓穴を掘る。
結果、馬は行く気を抑えきれず、それを制御しようとしすぎた騎手とのリズムは崩れ、互いを信じられなくなっていった。報いということか。
思えば、走ることを自ら拒否したことが2回あった。
一つは、大凡走の天皇賞。
阪神大賞典後の一戦で、立て直しは不可能という絶望的な状況。
でも、宝塚ではオルフェが戻った。あの日は一体…。
人気を背負って挑んだ、最初の凱旋門賞もそう。
ソラを遣ったのは事実だが、スミヨンは、
「ロンシャンの重馬場であんなに鋭く反応する馬がいるはずはない…」
と、思ったのだろう。これも騎手との関係がチグハグだった。
でも、調子がイマイチだったのだろう。JCも不発に終わった。
有馬記念とフォア賞。
何かある前には必ず勝っていて、おまけにその後もこの2レースを勝っている。
ここに動物的嗅覚の鋭敏さを感じる。防衛本能ともとれるが。
それでも、これはよくわからない。
阪神大賞典は、自分としたらあのまま行けてたら、余裕のよっちゃんだったのか?
謎だ。
もし答えがノーならば、完調に程遠い宝塚は勝てなかったはず。
今も人を信用しているか疑問だから、質問の際には代理馬を通してみるのもアリか。
でも、こう返してくるのだろう。
「俺とか、去年一緒に走った若造とは違うタイプが、凱旋門勝つね」
名馬の分析など、ナンセンスの極みなのだ。
最後の一花 ダンツフレーム(前)
00年6月。函館ダート1000Mから始まった物語。
ブライアンズタイム産駒で、芝・ダート・距離不問の馬。
ただ、少し昔気質の空気も醸し出していた男。
この頃から芝の高速化が進行していく。
折り返しの同条件の新馬を勝ち上がり、秋の阪神のオープン特別を2連勝。
いち早く翌春に照準を合わせ、きさらぎ賞から再始動。アグネスゴールドの2着。
初戦ではマイネルジャパン、2戦目で競り勝ったのがタシロスプリング。
ライバルは当初から骨があった。
叩き2戦目のアーリントンCを辛勝後、皐月・ダービーに挑戦するもともに2着。
以降、4-5-5-休-4-2。
相手は強かった。
アグネスタキオン、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ、アドマイヤコジーン…。彼らは種牡馬としても成功。
ちょうどこの頃からだったか、サンデーに歯が立たなくなってきたのは。
苦戦中の5歳エアシャカールだけとなった宝塚記念。
後に大活躍するツルマルボーイやローエングリンもここでは脇役。1番人気。
ただ、ジャングルポケット直前回避の影響か、通常土曜でもその週に行われるGⅠの馬柱が競馬面のトップを飾るものだが、この時は当日の福島メインがGⅠを裏一面へ追いやった。
レースはローエングリンが気分よく飛ばし、三分三厘から仕掛けてツルマルの追撃をしのぎ切る王道の競馬で快勝。
藤田伸二、武豊、河内洋。
まだ20代そこそこだった福永も池添もこの馬に跨り、GⅠ馬を知った。
名手にも支えられた競走生活。
デビューから2年後の絶頂。が、この後は右肩下がりの軌道を描いてゆく。
終わりの始まり。
常々思う。勝負の世界は厳しいと。
旬な男を詠む
先日発表されたワールドベストホースランキング。ジャスタウェイのブッこ抜き独走にもミソをつけるような数字が公表された際は、論拠を持ってその審査体制を正そうと思っていたのだが、当該カテゴリー単独トップという評価に。
海外での結果。ディープが当時の基準で125ポンド。今回が130だからハーツの仔が…、なんて感情論を持ち出す暇はなかった。
一つ確かなことがあるとすれば、世界中に散りばめられたファラリスの子孫たちは、どの国においても主要血脈を形成し、国際的評価の高い競走で傑出した結果を残してきたという事。必然の流れだ。
世界一の馬券名人たる日本の競馬ファンは、何を今更と、嘲笑っている。
賛否両論の桜花賞の騎乗。今また違うプレシャーを感じつつ、2度目の皐月賞制覇を目論む川田将雅。
フクノドリームの逃げ脚は恐らく目視できなかっただろうが、最初から捕捉に手こずる相手とも思っていなかったはず。
本音を隠したインタビューではなく、勝つべくして勝ったと胸を張った受け答えは、敗戦のリスクを常にはらむ彼女の戦法を受け入れているように見え、信頼感も増した。
でも、それは策の一つを習得したに過ぎず、父が思わぬ戦法を強いられたかの地の苦闘から学ぶことはあまりに多い。
現状乗り替わりは得策とは思えないが、次戦は大切にだ。
矢作厩舎が快調に勝ち星を積み重ねている。
師は、強面の表情に違わぬ信念の男。転厩話が現実になったこともある。
明快な結果を出して得られる名声に左右されるような俗物ではない。
華麗なるキャリアから展開した未来進行形の変遷。不可能を可能にする化学変化の証明を期待したい。