血視点③ ジェンティルドンナ
全姉ドナウブルーはあと僅かなところでインを掬われ、引退レースを勝利で飾れなかったが、母ドナブリーニの性質を色濃く受け継ぐ存在だった。
母は、1200までしか勝ち鞍のない2歳GⅠの勝ち馬である。
次女ジェンティルドンナは、短距離専門になるほど掛かる馬でない。溜めればキレる。
リファールのクロスとノーザンダンサーの5×4×5。
母がノーザンダンサーの同系配合馬で、その3×4を持つ。速さに磨きをかける強いクロス。
アメリカナイズされた欧州配合のグラスホース。
ただし、スタミナの血は不足しているから、スピードレースに向く。
本質でドナウブルーと同じなのは、姉妹であるから当然なのだけれども、やっぱり妹はディープの仔という印象が強い。
ウオッカと通ずる点もちらほら。
父がロベルト系で、その母父は日本でなじみ深いフォルティノ系のクリスタルパレス。
母は直系がネヴァーベンド系で、母父が父内国産種牡馬の雄・トウショウボーイだから、ナスルーラ系を幾重にも重ねられ生み出されたウオッカは、時に危うく、時に華麗に、まさにこの系統の性質を前面に押し出して活躍した馬だった。
時計に裏打ちされた高いスピード能力が本質だから、大一番の時計勝負には滅法強かったが、父の持つ破壊的な末脚が最大の武器。
牝馬だからか、前例に倣ったかのような共通項。
JC連覇で改めて示した、東京2400への特別な適性。
スペシャルワンとしての道。牝馬だからこそ大成したチャンピオンフホース。
これまでの安定感を、今後は望まぬことが吉。
それもウオッカに似ていたりする。限界の声が、馬の悲鳴であっては切ない。
芝の理想形
連続開催の中山競馬が終了した。
厳冬期のメインはダート戦。だが、そのダート戦並に時計を要す芝のレースが例年とは異質であった。
一部特別戦を除けば、平均して35秒以上の上がりを要し、勝ち時計が1つ半以上掛かった。
34秒台後半ではキレないとも評されるご時世。
ちなみに、オルフェーヴルが有馬記念で繰り出した上がり3Fの末脚は、なんと36.0である。
この状況を、正しいことだと思うべきだ。
オルフェのようなはっきり見た目にも分かりやすい圧勝劇に伴って、素晴らしい時計がついてくるのが自然。
金杯も2分を超える決着だったが、それは長いレース史の中ではごく当たり前の事。
京成杯の週から少し馬場をいじったか、生育状況が良化したか、どちらにせよ時計を要することによってだろうか、外差しの競馬が続いていたのが一変したものの、総じて時計に変化は出ず。
でも、常識的に考えて、海外だったらGⅠの勝ち時計になるくらいものだから、補正されたともいえる。
見てくれの決して良い芝の状態ではないのだから、冬の京都にしては異常な高速馬場より、ずっとまともな手法をとって、ある意味でスタンス確立となったのではないだろうか。
対照性を見出すということ。
そのどちらとも勝てる馬こそ称賛に値する。
過度なスピードを要求する異常なまでに速い上がりの競馬を、少々卑下する向きがあって当然。
パートⅠ国としての矜持をJRAが持ったところで、傲慢さに変化はないだろう。
それでも、鋭意努力のほどを願う。
我々は、少し異常な世界観を体験してしまっただけだ。後戻りしたわけではない。
むしろ、進化を遂げたと胸を張るべきである。
クラシック展望①
ミッキーアイル
トゥザワールド
が断然人気に推された京都の出世レースで、そのポテンシャルの高さを時計面でも示した。
トゥザワールドは、何事もなければ間違いなく本戦でも上位人気。
次戦予定のトライアルは急坂コース。初戦でバンドワゴンに完敗は気にはなる。
だが、若駒Sが太め残りだったのにも関わらず、そこそこメンバーの揃った中で他馬を全く相手にせず、再度レースレコードでの勝利はインパクト大。ダービー候補。
ミッキーアイルの距離不安についてだが、ダービーはともかく、現状、下手に下げて馬のリズムを損なうような競馬は好ましくない。
実績馬を封じたシンザン記念の内容から、コーナー4つの2000くらいまでなら十分に守備範囲だろう。
プレイアンドリアルについては、例年ならば水準よりちょっと上くらいの評価のはずだが、混戦模様で役不足とも思わせた朝日杯の高評価→不発から、京成杯快走で現状維持と堪えてみせた。中山の方が合うだろうし、オーナーの執念が裏目に出ないことを祈る。
各馬共通して、東京でどう戦うかが焦点か。
トゥザワールドの評価は、きさらぎ賞で直接対決とも目される、
トーセンスターダム
バンドワゴン
の世間評を加味しても、現状暫定トップでよさそう。
新馬・未勝利組は晩成型も多くなり、幾分スケール感も乏しい。
一応、シンザン記念と内外のコース差はあるが、同タイムで駆けたアドマイヤメテオは注目株。
その2着馬で、直後に未勝利勝ちのヤマノフェアリーと寒竹賞勝ちのバウンスシャッセが、牝馬の敗者復活組。
牝馬路線は、オメガハートロック参入だけでは上位安泰の印象。3月に全てわかりそう。
新馬回顧 1/25・26
土曜は東西1戦ずつ。
京都ダート1400を逃げ切ったワンダーハイーニャは、曾祖母に桜花賞馬のアチーブスターを持つ渋めの在来牝系出身。彼女の走っていた頃、3歳牝馬が秋に目指すレースはビクトリアCであった。ハイーニャは恐らくダート専門。
ドスローの中山2000は大接戦に。スペシャルウィーク産駒のキネオワールドが、1番人気のダイワブレスをハナ差封じる結果となった。
が、2分8秒台の決着では力差も何もわからない。どちらも前で勝負するタイプか。スケールアップしたい。
日曜中山はダート戦2つ。
牝馬のスプリント戦は、1番人気のキャレモンショコラが決め手の差を見せつける格好で抜け出し快勝した。ノーザンダンサーの母ナタルマを5代母に持つバクシンオー産駒の良血馬。活躍も見込めそう。
1800戦は、渋い伸び脚で坂上で先頭に立った2番人気の大型馬アドマイヤダリアが勝ち上がり。フジキセキの産駒だが、牝系は幾分重めのヨーロッパ配合。こういうタイプは、ダートの重賞となると苦しくなるが、どう育つだろうか。
京都は1800は、活躍馬の下がポツポツといる粒ぞろいの一戦。2番人気のディープ産駒・トップアートがキュールエラピスの猛追を凌ぎ切った。姉にワンカラットを持つが、どうも距離延長では怪しい感じはある。一瞬の脚で勝負するタイプ。
キュールエラピスは次戦人気するだろうが、チチカステナンゴ産駒の末脚は狂気的なところがあるから取捨は難しい。
中京は、アラフジの豪脚が際立っていたが、追い込みタイプとは限らない。出来れば中団からだろう。フジキセキ牝駒。その活力にいささかの衰えも感じさせない。
ストームキャットが来た
数年前、エイシンの2頭が立て続けにマイルCSで主役となり、昨年はアユサンやキズナに加え、2013年度代表馬ロードカナロアと母父ストームキャットトリオが各路線の中心レースを制し、またアジアエクスプレスが直系としてマイルという距離に対する絶対的な強さを示した。
このストームキャット現象を、今更ながら考察してみた。
普通に回ってこれたらという意味で1番人気に推され、それでも結果を残した牡馬2頭に着目してみると、ロードカナロアの中に入っているストームキャットが本来の性質を示しているように思う。
気難しさを秘めるスピード型で、ビッグレースのタフな展開を好む。安田記念はレコードに0.2差の決着だった。
そういう意味では、キズナなどは叔父の強烈さを継承しつつ、姉のような確実性のある伸び脚で相手をねじ伏せる性質も併せ持つから、必ずしも重要な役割を果たしているわけではない。
アジアエクスプレスはダート向きの脚力で初コースやゴール前の急坂をこなし、楽勝のゴールに繋げた点にらしさの一端を覗かせた。
2歳で巨体を活かし、”先駆者”ゴスホークケンと同じく、普通じゃない能力発揮を可能にしたと言える。
これこそスピード型の本質だろう。
総合的な観点でいけば、アユサンがらしさを見せた。
時計を要する急坂のある春の芝で、ヨーロピアンタイプに向きそうな競馬を、ダート血統を内包する馬が掲示板を占めた。
芝の極端な高速決着に向く血統ではない。
結局、ダート的持続力勝負が芝のGⅠで増加している証拠ではないだろうか。
日本のメインステージで、この手の血統が主役を張る、そのサインかもしれない。