優駿牝馬 -回顧-
9年越しの返り討ち。
「有馬記念のデジャヴ」
上位3頭の父が、最初で最後の直接対決をした時と同じだった。
ディープはもちろん1番人気。強敵と目されたのは、オークスへ異例のローテで挑んだバウンスシャッセの父・ゼンノロブロイ。引退レースの応援票もあったが、前年覇者であったことも大きく支持を集める要因となり6倍台の2番人気。
が、この2頭の父のパドック。正直、危ないと思わせるものがあった。
元気のなかったディープは、捲ってはいったが、いつものトップギアの向こう側にある何かが開放されることなく、またゼンノロブロイは、プラス体重以上にやる気のない切ない気配を漂わせ、結果もその通り、何もさせてもらえず沈んでいった。
この日のオークス。
そんな父のように体調面におけるマイナス面が、季節柄もあるが、この勝負を分けたという印象はない。
それぞれいい仕上げで、いい結果を出せそうだった。
でも、極論牝馬同士ならば、距離延長で何かが起こっても不思議じゃない。
ハープスターの敗因は距離であり、ヌーヴォレコルトの秘めたる最大の底力が発揮された要素も、この距離、この馬場だったことは誰にだってわかる。
バウンスシャッセもそれと似たようなもの。
が、父たちがあの日、何をもってその着差になったのかを分析すると、
「苦手だと思われるコースで、全てを出し切ったため」 ハーツクライ
「苦手かもしれないが、ここは力で押し切りたい」 ディープインパクト
「目標はここにあったから、しっかりと準備をして何とか一発を…」 ゼンノロブロイ
体調の分、着差は3頭ギュッと詰まったが、結局蛙の子は蛙。
実力差はあっても、着順に反映されるとは限らない。それが競馬だ。
ヌーヴォレコルトの底知れぬ活力と、複雑な心境ながら、それでも仕事をこなせばならない覚悟を持った岩田騎手のベストパフォーマンスを、ただ素晴らしいと評価すればいいのだ。
一回きりの魅力が、クラシック競走には凝縮されている。何だか、清々しい。
敗因は距離だろうが、体調が悪いということが言い訳できないことに、問題がどの程度あるかわからないのがハープスター。
マイルがベストで、その戦法はあまり褒められたものじゃないけど、父があの日を経て成長したようなことも期待できなくもない。
挑戦して始まる何かもある。行った方がよい。
優駿牝馬 -予想-
ハープスターにとって、ここは小さなステップに過ぎない。
ただ、距離適性より展開の方が重要なレースで、そこが読み切れない点は不安。また、この470kgの鹿毛馬をパドックで見ただけでは、とてもど派手なレースをするとも思えない。
これまでのレースの印象から考える。
そもそも、前走の桜花賞が大逃げ-超ハイペースの展開でありながら、上位入線馬のほとんどが上がりで34.0を切るというような、見た目と実態がちょっと違う展開のレースで、殿追走から32.9の上がりで強引に勝ち切ったのだ。
適性や展開利を超えたパフォーマンスであり、むしろ脚元への不安が生じた程。これがずっと続いている。
万一負けたところで、今まで思っていたものと本質が少し違ったというだけのこと。その時は、その時。
そこで、次なる舞台の展望も加えてみた。
結論は、ここを勝つエネルギーが小さい分だけ凱旋門賞の着順が上がるだろう、ということ。
少なくとも高速馬場で本質的な距離適性をぼやかせる条件下で、2400Mを勝つために必要なスタミナは、3歳限定戦ではさして必要がない。楽勝なら尚のこと。
桜花賞馬が数多く制している歴史から、単純なことではあるが、必ずしもスタミナが優先される競馬ではないと考えられる。例え、桜花賞のような展開になったとしても。
マイル重賞3勝。まず基本能力の面で他に劣る理由は見つからない。最低でも、フローラS上位組と同格だ。
そして、スタミナは証明できなくても、絶対能力をほぼ完全に出せる条件であるオークスで、よほどのアクシデントでもない限り、大敗は考えづらい。
ただし、次を見据えた場合は、ここを勝つに越したことはない。
勝つなら楽勝で、負けるなら惜敗。
どちらも距離と馬場の適性において、ここがベストorワーストの結果。どう転ぼうとも、次の舞台での期待は持ち続けられる。
だから、勝つことに拘りすぎていないか、というソフト面の不安が気になるのだが、師曰く、
「桜花賞はあの競馬で負けても仕方ないな、と」
「行き出してからが凄いですよね、他の一流馬より、数段」
一度、主戦に雷を落としているから、不安が少なからず残る競馬で、迷いを生まないよう、また負けてしまってもいいじゃないかという先回りをしたフォローをすれば十分。
これで敗因がまた一つ減った。馬も騎手も、穴に落ちなきゃ大丈夫。
が、他の17頭はそうはいかない。
スローなら差せるが、平均以上では相応のスタミナが問われる。
関東馬が11頭もいるので、そこから、
マーブルカテドラル
ヌーヴォレコルト
に注目。
昨年はアユサンが出たアルテミスS組は、惜敗馬も怖い。2、3着馬は、その後も活躍。マーブルカテドラルは、時計はともかく、総合力でそららを制した印象。こういうタイプは距離延長でも侮れない。
が、確率の高い方を選んだわけだから、おとなしくヌーヴォレコルトを上にする。
順番通り当てる馬券には妙味あり。マジックタイムの直線一気は怖い。
血視点⑧ ミッキーアイル・ヴィルシーナ
春のマイルGⅠを制圧するディープ産駒。初制覇した年は、
2011年
桜花賞 安田記念
2013年
ヴィクトリアマイル
2014年
NHKマイルC
桜花賞は初年度から4連覇中。初年度産駒のトーセンラーは5歳でマイルCSを制し、阪神JFもブエナビスタの半妹が勝っているから、完全制覇にもうリーチ。達成すれば史上初だ。
勝ち馬の共通項として、レイズアネイティヴの血かノーザンダンサーのクロスを有しているという点が挙げられるが、それよりは外れの少ない優秀な種牡馬であることの証明というべきだろう。
しかし、2週連続の逃げ切りには驚いた。
内が有利で前残りになりやすい馬場を疾駆した2頭に共通する、ヌレイエフとレイズアネイティヴの血。
加えて、共にヌレイエフの父でレイズアネイティヴの父を母父に持つノーザンダンサーのクロスがなされた配合からは、徹底先行型のイメージは浮かばずとも、スピード型に傾倒した馬が出現は予見可能。
ミッキーアイルの母父は、世界を席巻した今世紀初期の象徴・ロックオブジブラルタル。
組み合わせの妙というよりは、見た目の印象通り。「ディープ的」の象徴だろう。
一方、Vマイル連覇のヴィルシーナは、ミッキーよりはバランスがよく、クラシックでは連続好走したが、晩成型を多く出すマキャヴェリアンやブラッシンググルームの血が、本質を引き出した。
おまけに、ヘイローの3×4×5という執拗なクロスでダメ押し。無骨に勝ちに行く姿は、見事に血統表とリンクしている。
さて、ディープの次なる一手は?
3000が先か、1200が先か。
皐月賞を制した後に、次の扉が開く。
泥かゴミか、ではなく
「来年のドバイWCはダートでの開催」
今冷静に考えてみると、どっちつかずの馬を救済する側面があったことも否定できなくて、ジャーナリストが的確に批評すればよかっただけのこと。浮かれた連中が多すぎた。
実は、その特殊性の部分を活かして、むしろ地方競馬で棲み分けと救済、それに差別化を図る意味で、流行の言葉を使うと、ダートとハーフハーフの割合で敷設してみたらどうだろうかと思っていたのだが、ドバイで金の話が出てきて尻込み。
タペタは失敗。が、同時にニューポリトラックの否定ではないと、しっかりと発信する力がマスコミには問われる。
その存在意義は、一定程度認められているオールウェザー。
高速馬場と欧州の重馬場では力を発揮できないけど、渋めの芝に向く馬にベストだったのは確か。
2000M不敗のヴィクトワールピサとて、2000Mのベストタイムは2:00.8。
でも、やっぱり米国馬が回避するような事態は本末転倒。これでは芝カテゴリーのイレギュラーマッチにしかなりえない。
芝をオールウェザーに変えた競馬場は、知る限り世界のどこにもないことが、最大の根拠である。
歴史を覆すような革命は、一日にしてならず。ただ、そのナイスアイディアを卑下する発言は、今こそ慎むべきだ。近代競馬が連綿と築いてきた、芝でスタミナを試し、ダートでスピードの限界を測るシステムへの挑戦は続く。
それでも、沈黙の時間が短いに越したことはない。
日々の研究から展開する未来図は、核の問題を劇的に解決する方法を編み出すプロセスに通ずるものがある。昨日のミスより、明日への希望を信じられる人間でありたい。
ノレてる?
5月に行われたGⅠ3競走を振り返ると、まず、武豊の不発続きに関しては問題なし。
ただし、その乗り方を想像できた部分はあって、例えばスマートレイアーに普通を要求したらどうなるのだろうか、という点だけは誰にもわからなかった。
出遅れた方がいいなんて事前に想像しても仕方ない。前提条件のややこしさも騎手人気に繋がった。
もし、出遅れてもこの結果だったら、また出遅れて届かず…。
皐月賞でも似たようなことがあったが、ウルトラCなど普通決まらない。人気者は辛い。
一方、同期の蛯名騎手はその皐月賞から、
1-1-3-4
と絶好調。みんな走った条件がぴったりだった。
騎乗フォームの変更は物議を醸したが、少なくとも昨年よりは体のブレが小さくなり、安定感が出てきた。好調なのだから当然か。
両者とも、他者が技術論を語る必要はない。
もう一人、幸四郎騎手が好調だ。
テン乗りと主戦の仕事をこなして、ここ3週で悔しいけれど2着2回。
正直、両馬のベストパフォーマンスが、即優勝に直結する条件ではなかったように思うが、ウインバリアシオンは早く動くとダメで、マンボはズブ。
人気馬での好結果。オースミタイクーンが懐かしい。
さて、残念な人も2名いる。
3戦ともディープ産駒で挑んだ浜中俊に、
「サトノノブレスの逃げは普通すぎ」
と、小言を一つ。
アスカクリチャンを途中で行かせるか、もし逃げたかったのなら、もっとテンは行かせてよかったはず。
勝ち馬と0.5差つけられたのは、2度目の下りのひきつけが甘かったから。頑張れ。
あと横山典弘なら、ローブティサージュは殿一気でよかったように思う。流れが悪くなってきたか。