宝塚記念 -回顧-
馬に任せるという意味は、
「第一に、勝ち負け以前の問題がある」
という、スターホースにはあるまじき危険な性質をはらむ可能性を指している。
だから、馬に任せたのではなく、常にリアクションをしてくるのは君の方でいいから、それでもたまにこうやって欲しいというサインを出すけどいいのかな、と会話するために、わざわざ栗東に三度足を運んで、かつお互い納得のいく約束事を契ったのである。
自分の形を持っているから、それを大切にしたい。例え出遅れても…。
だから、いつものように二の脚はつかずも、結局は、昨年と同じ位置取りになった。展開は大分違うから、それは差し馬にも有利に働く可能性も、もちろん流れに乗った穴馬グループの台頭の場面も想定されたが、
「ゴールドシップが普通に走ったこと」
により、差し馬が台頭できるレースを壊す展開にはならなかった。
それもこれも、恐らく約束事の中に入っていただろう、
「君が乗り気じゃないのなら、僕はその気持ちを大事にしようと思う」
という、鞭自己規制宣言に特効性があった、何よりの証だ。
凱旋門賞に行くなら、ここを勝たないといけなかった。
一応、遠征資金確保という側面が、この一年の競馬にあったなら、約1億5千万円ほどオーナーの懐に収まった計算になる。行くとは思うが、馬への自由度を最優先にし、引き際もきっちり後腐れのないよう願いたい。
それでも、オルフェの産経大阪杯みたいな、モタれながら…、というエンジンが掛ってからの微妙なブレの部分が共通していたから、それはサンデー系の特性である以上、十分に気をつけてもらいたい。また…、はある可能性も感じた。
3着ヴィルシーナと5着デニムアンドルビー。
ここでは力及ばずの残る2頭のクラシックウイナーの方が強いはずなのだが、展開利以前に、そういう適性の馬なのだろう。
11着のメイショウは、前々走と同じだったと、主戦が語ったという。
3番人気のジェンティルは、川田騎手が戻ってきたときは何も語らず…。
もし、彼女たちに共通する敗因があるとすれば、ゴールドシップにはない、
「生真面目さ」
のせいかもしれない。余力は残っていなかった。
ウインバリアシオンにはそのいずれも足らず、また、強烈な武器も脚質の印象よりは大したものを持っていないということだろう。勝ち運も。
宝塚記念 -予想-
地獄のような世界に射した西日。
ご来光の出入射点で呼吸をし、また同時に、結果を残すことの重要性も証明した名牝が、今回の主役であると確信している。
ある少女の写真を眺めていた。ディープインパクトの仔なら、手広く押さえるのも悪くない。
毎年恒例のジコマンPOG馬30選のうちの1頭が、この後、思いもよらぬ大出世を果たす。
同じ頃、姉は気難しさと非力さを露呈し、クラシックを断念。この年からディープ時代は始まる。
桜が咲く頃は、ディープ産駒が活躍する。
その時に違うブームを作った皐月賞馬と、対戦経験のある者同士が今回対決。
フランスの高級ブランドなんざ興味ねえよ、とかすっとぼけていた奴だが、牝馬の時代に最も抗った駿馬でもあった。
「男なんて、そんなもんさ」
ナカヤマフェスタ、凱旋門賞再挑戦は不発。煮ても焼いても食えぬステイゴールドの狂気は、花の都でマエストロにはなれないことの最大要因であると、オルフェの未来を暗示していたのか。
これら全て、福島競馬場が開催不能だった年のエトセトラである。
年が明けた。姉が重賞を勝つより一足早く、牡馬混合のシンザン記念で初重賞制覇を果たしたのが、今回川田騎手を再び迎え入れた彼女だ。
デビュー戦は、京都競馬の中でも指折りの極悪馬場。2着。以降、タフな馬場では何度となく苦しめられることになる。
3月のトライアル4着時は、その苦手な重めの馬場と極度の体調不良の影響もあった。
でも、その後の彼女は威風堂々、完全王者の姿を誇示する。
桜は当たり前のように力で他をねじ伏せ、オークス圧勝、秋華賞も勝負強さを見せ快勝。
極限まで絞りこんだJCでは、「あなたはまっすぐ走れないんですね」と、王者にぐさり。
ディープらしい真面目で強かな気質がよく表れていた。
特別なものを手に入れた時、それが選り取り見取りの推奨品から選んでいた場合の抵抗感。もう手の届かないところに行ってしまったんだな。
それもこれも、桜花賞で違う馬なんかを本命にしたからだ。先日のマーメイドは、あれだけいい流れの中で5着。
全くもう…。今更だが。
古馬になり、ドバイで完敗後は、同期の牡馬連中にもプライドを粉砕された。JCでもまたハナ差。
終焉は近いのか…。
だから尚のこと、京都記念の結果に、愛おしき姫の時代の顔を顧みた。決して、女らしくないわけじゃないだよな。
シーマクラシック圧勝なんて、もはやどうでもいい。
今の彼女は、ハナ差でジャパンカップを勝つことにおいて当代随一のスペシャリストだ。よって、2400Mでは常に世界レベルのパフォーマンスを披露できる。
前年の5月以降に2400MのGⅠで好走している馬が、このレースで10年連続、20年で19回馬券になっている。
もし本質で変わらないものがあるとするならば、それはまた彼女から勇気を得るのに、ここまでの功績を勝って祝う理想形が、今回の主題ではないだろうか。
同時に、これが最後の輝きとなる予感もする。何故なら、今の彼女の目標に、次なる試練などもすでにないからだ。
ジェンティルドンナのイニシャルGは、悲惨な結末となったサムライブルーの永遠のテーマである、「ゴール」を意味するサインなのかもしれない。
「ゴール」ドシップは…、後付けの口実の方が面白い。
新馬戦展望
自由なイメージで買えるのは面白い。思い込みで買って外しても、結局誰も悪くないのが、新馬戦のいいところだ。
土曜
東京(芝1600)
◎エグランティーナ
母の全姉はダイヤモンドビコー。Sクリスエスの仔なので、少し早いかもしれないが、母母父アリダーの日本の傑作はリンドシェーバー。総合力で。カッチーらしい好位抜け出しを希望。
阪神(芝1200)
◎イッツマイン
洋芝向きの牝系とマキャヴェリアンの孫の配合。函館なら鉄板だろうが、牝馬でこの時期の阪神なら。短距離戦ながら、翌日の大一番のヒントが見えそう。
函館(芝1000)
◎アンブリカル
チャンピオン血統のデパートのような配合。短距離型なら大成も。マンハッタンカフェ牝駒。
日曜
東京(芝1400)
◎ショウナンライコウ
そろそろ来そうなバクシンオー。テスコボーイとロベルトの構成は、ウオッカとは逆の配合。東京向きかも。
阪神(芝1800)
◎ティルナノーグ
今週唯一の中距離新馬はディープから。母がゴーンウェスト×ジルザルで怪しさ満点だが、その奥には正統派の根幹血統がズラリ。凡走は危険なサイン。
函館(芝1200)
◎ミネッサ
プリティダンスの仔がファルブラヴだから気になるが、やっぱりここはメリッサの方で。またマンハッタンの女の子だ…。
比類なき優駿 宝塚記念戦記<1999年・グラスワンダー>
名馬時代の象徴であった。
アルゼンチン共和国杯は6着。もうダメなのか…。
有馬記念。しかし、セイウンスカイもエアグルーヴも、メジロブライト・ステイゴールドの4歳春天コンビも主役にはなれず。天才は復活した。
前々走、休み明けの毎日王冠で真っ向4角サイレンススズカ潰し。5着に不満も、手応えはあった。
完全復活から半年あまり。
まだ見ぬダービー馬との対決へ。敵は、この年3戦全勝。
負けられない安田記念。が、思わぬ伏兵に足を掬われる。
確か、あいつは前回負かしたはずの…。栗毛に弱いらしい。
名誉挽回の一戦。だが、ライバル・スペシャルウィークはまた疲れていた。
菊でレコードの2着死守後、JCは乗り替わりとそこから中2週のマイナス材料が全て敗因となり、有馬記念もパスした。
本来いるべき鞍上は、とある新馬戦でルール無視の走りをさせてしまって騎乗停止中。ダービー馬・アドマイヤベガのデビュー戦だ。
マッチレースを期待されたのだが…。春もまたよく走ったから、ほぼエンプティ状態。
アクシデントといえば、グラスワンダーが産経大阪杯に出られなかったのは、謎の裂傷に起因する顔からの大出血があったため。原因は未だ解明されず。
ダービー馬はJC同様、少しモタれながら走り、傷も癒えた栗毛の怪物は、ただただ自分の走りに徹して、坂を上りきってからはもう独走態勢となった。
11年後、この時3着のステイゴールドの仔が宝塚記念を勝ち、スペシャルとグラスの産駒がそれぞれ2、3着した。立場は逆転。
しかし、JCはまだ勝っていない。一方で…。三つ巴の競馬史は続く。
大いなる復活 宝塚記念戦記<2012・オルフェーヴル>
2012年春の2走だけ、我を通した名馬。
前走で勝っていた馬が6頭いて、うち半数はGⅠを好時計勝ち若しくは、圧勝をしていた。
春の天皇賞組を中心に、前走GⅠを使って臨んだ馬も6頭いて、4頭が3着以内。
残る2頭のうち、安田記念8着のスマイルジャックは、距離実績のなさも影響してか、単勝159倍のブービー人気であった。
前走4着以下から巻き返して勝利した馬は、最近ではマヤノトップガンだけ。そういえば、有馬記念を勝って、阪神大賞典で惜敗して、春の天皇賞はよもやの大敗を喫し…、いや、それでも5着だったじゃないか。
トップガンが1番人気になったのは、GⅠ級がダンスパートナーしかいなかったから。はあ…。
データが指し示す、切りのサイン。3倍台の1番人気にみる複雑なファン心理。
そのトップガンを競り落としたナリタブライアンの栄光と挫折そのものを辿っているとすれば、ライスシャワーみたいなことも考えられなくはない。
シンボリルドルフ・ディープインパクトといった、日本競馬の金字塔を打ち立てたレジェンドたちと共通する血が何を暗示しているのか。
サイレンススズカと同じ毛色でも、ドラマチックさや儚ささえも似てしまえば、期間限定最強馬の複製に過ぎない。
しかし、全てが違うからこそ…。
内から走る気を漲らせ4角を回りきった時、8分仕上げのこの馬は紛れもなく、
「三冠馬・オルフェーヴル」
だった。
ここまで54回宝塚記念は行われてきたが、その中で最も非常識な競馬である。
オルフェーヴルは立ち直り、ここから引退レースまで、結局連を外すことはなかった。