ああ、夏模様
大雨の影響は大きく、ジャスタウェイも大分お疲れのようで…。
昔から雨の安田記念は定番。梅雨時の名物競走である。
一応、レース前に雨は上がったが、高松宮記念の時と似た極悪馬場でレースが行われることとなった。
不穏な週末。最後の最後に珍しい出来事もあった。
8日の東京11R(芝1600)と12R(ダ1600)の勝ち時計と、そのレースの1000M通過を見比べてみると、
安田記念
1:36.8<59.1>
三浦特別
1:34.1<57.2> レコード
芝にしては遅いし、ダートとしてかなり強烈なスピード競馬。
歴戦の猛者がバテバテになった直後のこと。雨上がりというのも重要なファクターだったのだろう。
オフシーズンにはよくあるのだが。夏になったのか。
6月が始まると、もう新馬の季節。
欧米並みの早いサイクルで世代交代が行われている生産体系は、賛否の分かれるところ。
が、一番になってからでないと、それが正しいと証明できないのが勝負の世界だ。
第1週目の新馬戦は、チチカステナンゴ、ショウナンカンプ、ダイワメジャーの各産駒がデビュー勝ちを決めた。
もう一戦、ややくたびれ始めた日曜・東京の新馬を制したのはストーミングホーム産駒。
賞金上位の馬を調べてみたところ、ほとんどが平坦・短距離の専門家ばかり。そういう狙いで導入した種牡馬なのだろう。
ただ、先週垂水Sを制したマコトブリジャールは例外。
芝の中距離を主戦場とし、中央場所を中心に勝ち星を重ね、オープンまでのし上がった。本質と可能性の交錯。
雨とは別に、走る気に影響を与える季節になったということか。
なら、もう夏ではないか。気づかなかった。
最強の勇者
世界最高の評価を得るまでの過程におけるターニングポイントとは?
そういえば、ジャスタウェイが中日新聞杯でもがいてた頃、日本競馬界は転換期を迎えつつあった。
同期・4歳勢のスターホースや候補たちが、今のジャスタウェイのように、主要競走や海外も含めたGⅠで素晴らしいパフォーマンスを見せていた。
また一つ年上のオルフェーヴルも、不世出の三冠馬たる所以を勝つことによって誇示して、紆余曲折はあったが、歴史的ラストランに繋げた。
2010年代の競馬シーンを彩る、大きな潮流の中にあった季節。
重賞1勝の2勝馬には、賞金不足でそれらに対抗する術さえなく…。
安田記念の翌週のエプソムC。クラレントを内目から捉え、ハナ差の勝負に持ち込むも、
「2着」
その直後、4強は3強に欠け、結果1強になったような幻を我々は堪能する。以降、それぞれはバラバラの道へ。
関屋記念、猛追も及ばずレッドスパーダの2着。マイルでもダメか。
毎日王冠も、超スローでいつもより前につけて、いつもより前にいたエイシンフラッシュに押し切られ2着。
ちょうどその夜。オルフェがトレヴにコテンパンにやられたのだ。
同じ負け、同じ2着、同じ強い馬に完敗した奇遇。
父も似たようなタイプだった。ステイゴールドとハーツクライ。
「いつになったら勝てるのだろうか」
この時、何かが乗り移ったのか?
代わって、ジャスタウェイが勇者になった。何かが入れ替わった。
敗戦の持つ意味は大きかったのだろう。
大樹の陰でひっそりと公開スパーリングをして、自信をつけていった。結果、父以上のパフォーマンスを体現する名馬へと成長できた。
オルフェも同じだ。
新馬回顧<2014-15> 1
土曜日
阪神の1600Mから今期の新馬戦がスタート。
こっちだって芝は湿っているんだぞ!という叫びが聞こえてきそうなチチカステナンゴ産駒のワンツーで、ダイワオンディーヌの仔・ケツァルテナンゴが初陣を飾った。
上がり3Fのキレはともかく、好位からの競馬で渋とい脚を伸ばすというらしい競馬。
思えば、母はダートで4勝した馬。このいかにもという競馬から勝負強い印象を受ける。
人気のスマートアローは、ディープ産駒ながらティンバーが肌という配合。だからこそ、出遅れは痛かった。
前に行ければ…、だったはずだ。
東京は極悪馬場の1400戦。こちらもいかにもの展開。
ダイワメジャー×タマモクロスという配合のマコトダッソーが先手を奪い、そのまま押し切る内容で快勝。2番人気だったが、この馬場なら人気以上に走ることは十分に読めた。
東西とも、上がりの速い競馬に向くタイプではないだろうが、いやらしい存在になりそうだ。
日曜日
土曜とは条件入れ替わって、それぞれ芝の阪神では1400戦、東京ではマイルの新馬戦が行われた。
阪神戦は、行き切ってこそのショウナンカンプの仔・ノーブルルージュが逃げ切り勝ちを収めた。
この日も1番人気のマイネルシアトルが出負け。開幕週ということもあるが、うまく流れに乗れないとちょっと辛い。
相変わらずの不良馬場だった東京は大波乱の決着。
きっと、この週にダートがないから使ってきたのだろう、ストーミングホーム産駒のシゲルケンカヤマがゴール前抜け出した。牝系は完全に砂専門といった趣で、この距離も微妙。馬場だろう。1番人気馬はそのせいもあって16着。
安田記念 -回顧-
普通は交わせないはずなのに、それでも交わしてしまったことの意味。
圧倒的なハナ差勝ちだ。
立場があるからこそ、下手なことはできない。
15年前の有馬記念では、まさかの出来事もあったくらいだ。
GⅠを勝つと、結構派手なガッツポーズをする人だから、確実に勝っていることがわかってから歓声に応えたかった、というわけではない。
みんなでこの勝利の素晴らしさを共感することが、凱旋レースを制した時に一番大切なのだ。
それにしても、破壊的な強さである。
何があっても人気になる馬が体現した、何があっても前を捕える闘争心。全ての面で、2着コンビを上回っていた。
騎手の腕という点で、変な乗り方をすることがなければこの結果は推察できたのだが、想像以上にタフなコンディションで、誰でも音を上げてしまうような厳しい展開だったにもかかわらず、奇跡の復活を果たしたヒーローを、寸前のところで悲劇の証人にさせてしまうドラマチックさ。
「最後は頂いていくよ」
競り落とす時の憎たらしいまでの強さ。きっと世界中で今は、ジャスタウェイにしかできない芸当であろう。怖いくらいに強い。
彼のそんな心のうちが見られたから、善臣騎手もさぞかし、ホッとしたことだろう。
あれほどの馬でもハナ差でしか勝てない。そういう向きもあるかもしれないが、
「テイエムオペラオーがそうだったじゃないか」
悲劇のロージングランの翌年に見た、衝撃の直線・冒険活劇。勝っている馬にしかできない芸当に歴史の教訓を見た。
「強いものは強い」
表現はよろしくないが、ジャスタウェイ凱旋ランのダシに使われてしまったグランプリボスの底知れぬ活力には、改めて敬服させられた。
どこまでいっても追いつかれないはずの競馬…。
東京マイルの法則は、マイルが得意な馬は、条件さえ整えば必ず復活する。ブラックホークもアドマイヤコジーンも、スーパーホーネットだってそう。
ただ、他にももっと重馬場適性のある馬はいたはず。
GⅠは適性だけでは勝てない。だから、価値があるのだ。
そうなってくると、勝っている勝っていないの差が今週も出たということか。
未来に繋がる大いなる敗戦にしてもらいたい。
強い馬に今度乗ったら、誰にも渡さないという気概を、結果を残して見せてもらいたい。
皇成の春は近い。
安田記念 -予想-
このまま断続的に雨が降り続ければ、当日の雨量如何では、数年前にロジユニヴァースが大勝したダービーの時のような、また高松宮記念みたいな田んぼ馬場のような状態も想定される。
いずれにせよ、この馬の人気には影響しないだろうが。乗り替わろうが、まさかの阪神開催に変更となろうが、ジャスタウェイを疑う人間など、もうこの世には存在しない。
雨を疑いはじめのきっかけにして穴狙いをするにしても、不良馬場の東スポ杯でこそ力を出せずに敗れているが、天皇賞に至るまでに挙げたわずか2つの勝ち鞍は、いずれも時計のかかる後継ラップのマイル戦であり、コーナー二つの直線の長いコースでの好走歴だということは見逃せない。
中山記念はもちろんのこと、天皇賞の時もメイダンの芝コースにしても、決して速い時計の出る馬場状態ではなかったわけで、レース時の雨は敗因となるかもしれないが、それごときの理由で凡走するようなひ弱さなど微塵も感じさせない。
むしろ、彼の周りだけは雨粒が落ちてこなかったという名馬伝説の方が、よっぽど現実味がある。
ただし、ハーツクライの仔が1番人気に応え、かつ東京の日本の最高峰GⅠを3連勝するイメージはどうしても湧かない。
ディープが差されるイメージもないが、ハーツクライが差されるイメージも湧かないと、先週ダービートレーナーになった橋口師が、あのレースの前に語ったとされるが、本格化したトニービンの血の入った馬は、自滅や不利でもない限りその通りの戦績を残してきた。
でも、器用じゃないから思ったより下がってしまったときに負けてしまう。
馬場も悪ければ…。
一縷の望みに賭けてみたい。
得意とする後継ラップの展開だったマイルCで完敗した相手である、カレンブラックヒルやクラレントに今更能力で劣るかもしれないという見立てには無理があるだろうが、同期で裏街道から復活を果たしたかつての皐月賞1番人気馬とは、まだダービーでしか対戦していないじゃないか。
ならば、その時10着ながら0.2差先着したグランデッツァには、まだチャンスが残されているかもしれない。
半姉はあの年の桜花賞馬。その年の夏から走り出し、順調にキャリアを重ねていったが、故障馬続出のこの年のダービーで敗退後、重度の屈腱炎を発症。
生き残りは、ゴールドシップ、フェノーメノ、そしてジャスタウェイ…。凄い馬しかいない。
でも、なぜかそれに逆らいたくなるのが人間の性。
嫉妬を爆発させ、それを力に変えられるのは、若いうちに結果を出したカレンブラックヒルではない、もう一方のステーブルメイトという図に、妙に固執したくなった。
もし最強馬が負けるとしたら、こんな理由しか思い当たらない。現実のドラマに、尾ひれ背ひれなど必要ない。
ありのままの物語が、我々に感動をもたらす。
反動さえなければ…。前走都大路Sの内容は、ジャスタウェイにも通ずる完成期の名馬だけが醸し出す圧倒的な征服劇だった。脚質と血統がそのまま反映されたような名馬世代の名馬と元候補。
ここでまた先着してこそ、真の復活と言える。