比類なき優駿 宝塚記念戦記<1999年・グラスワンダー>
名馬時代の象徴であった。
アルゼンチン共和国杯は6着。もうダメなのか…。
有馬記念。しかし、セイウンスカイもエアグルーヴも、メジロブライト・ステイゴールドの4歳春天コンビも主役にはなれず。天才は復活した。
前々走、休み明けの毎日王冠で真っ向4角サイレンススズカ潰し。5着に不満も、手応えはあった。
完全復活から半年あまり。
まだ見ぬダービー馬との対決へ。敵は、この年3戦全勝。
負けられない安田記念。が、思わぬ伏兵に足を掬われる。
確か、あいつは前回負かしたはずの…。栗毛に弱いらしい。
名誉挽回の一戦。だが、ライバル・スペシャルウィークはまた疲れていた。
菊でレコードの2着死守後、JCは乗り替わりとそこから中2週のマイナス材料が全て敗因となり、有馬記念もパスした。
本来いるべき鞍上は、とある新馬戦でルール無視の走りをさせてしまって騎乗停止中。ダービー馬・アドマイヤベガのデビュー戦だ。
マッチレースを期待されたのだが…。春もまたよく走ったから、ほぼエンプティ状態。
アクシデントといえば、グラスワンダーが産経大阪杯に出られなかったのは、謎の裂傷に起因する顔からの大出血があったため。原因は未だ解明されず。
ダービー馬はJC同様、少しモタれながら走り、傷も癒えた栗毛の怪物は、ただただ自分の走りに徹して、坂を上りきってからはもう独走態勢となった。
11年後、この時3着のステイゴールドの仔が宝塚記念を勝ち、スペシャルとグラスの産駒がそれぞれ2、3着した。立場は逆転。
しかし、JCはまだ勝っていない。一方で…。三つ巴の競馬史は続く。
大いなる復活 宝塚記念戦記<2012・オルフェーヴル>
2012年春の2走だけ、我を通した名馬。
前走で勝っていた馬が6頭いて、うち半数はGⅠを好時計勝ち若しくは、圧勝をしていた。
春の天皇賞組を中心に、前走GⅠを使って臨んだ馬も6頭いて、4頭が3着以内。
残る2頭のうち、安田記念8着のスマイルジャックは、距離実績のなさも影響してか、単勝159倍のブービー人気であった。
前走4着以下から巻き返して勝利した馬は、最近ではマヤノトップガンだけ。そういえば、有馬記念を勝って、阪神大賞典で惜敗して、春の天皇賞はよもやの大敗を喫し…、いや、それでも5着だったじゃないか。
トップガンが1番人気になったのは、GⅠ級がダンスパートナーしかいなかったから。はあ…。
データが指し示す、切りのサイン。3倍台の1番人気にみる複雑なファン心理。
そのトップガンを競り落としたナリタブライアンの栄光と挫折そのものを辿っているとすれば、ライスシャワーみたいなことも考えられなくはない。
シンボリルドルフ・ディープインパクトといった、日本競馬の金字塔を打ち立てたレジェンドたちと共通する血が何を暗示しているのか。
サイレンススズカと同じ毛色でも、ドラマチックさや儚ささえも似てしまえば、期間限定最強馬の複製に過ぎない。
しかし、全てが違うからこそ…。
内から走る気を漲らせ4角を回りきった時、8分仕上げのこの馬は紛れもなく、
「三冠馬・オルフェーヴル」
だった。
ここまで54回宝塚記念は行われてきたが、その中で最も非常識な競馬である。
オルフェーヴルは立ち直り、ここから引退レースまで、結局連を外すことはなかった。