皐月賞 -回顧ー
至極の名勝負の予感も、坂上で完全に決着がついた。
フジキセキ、蛯名正義、栗田博憲。共同通信杯だけなら人気に応えて不思議じゃない三者の共通課題は、快勝という思わぬ結果で大団円。
初、初、初。
フジキセキ産駒がカメハメハ産駒を完膚無きにまで打ち負かした。今回は格の差もあった程。
配合はスピード型も、快速型以外の今の馬は本質が似たり寄ったり。個性を見極めたい。
皐月賞制覇で三冠ジョッキーに大手をかけた鞍上は、次回の前掛かりの大勝負で人生最大のプレシャーと戦う。凱旋門賞とは違う。やはりダービーはステータスだ。
クラシックは初めての栗田師。
雨の高松宮記念を制したシンコウフォレスト以来のGⅠ勝利。ヤマニンゼファーを筆頭に、晩成型の活躍馬が多かった厩舎の傾向は、巡り合わせもあってのこと。
タレンティドガールで女王杯は勝っているが、牡馬クラシックは格別だ。
ただ、今回の主役は馬。
蛯名騎手が、新馬戦以来一番折り合ったというコメントを残したように、前走の共同通信杯みたいに内で抑え込むのに少し苦労した姿とはまるで別の馬。
結果、これが大きく影響する。
トゥザワールドやトーセンスターダムが勝負をかけた好位付けを敢行し、それを見るように平均より少し緩いウインフルブルームの作り出す流れに乗り、直線では17頭を制圧。
今までと違う競馬では、違う側面が出てきやすい。皐月賞の設定は合っていたようだ。
それと最後併せたトゥザワールドは、思われているほど器用ではない。
中山でこれ以上は…。終いの使い方は、母と同様結構な難題だ。
トーセンも少し残念。ローテーションに狙いがはっきり表れていたから、皐月賞対策は何もなかったはず。
池江師にしてはチグハグ。勝負の世界は厳しい。
アジアエクスプレスに今器用さを求めては酷だろう。彼なりの走りはできていたと思うし、体もできていた。
ダービーは…。この世代は、優等生タイプは少ないが、だからってとんでもない武器があるわけでもない。
ワンアンドオンリーが気にならない人はいないだろうから、逆に次も前か?
皐月賞 ―展望―
日本は未だ2400至上主義。凱旋門賞への畏敬の念には、異様さすら感じる。
クラシック競走は距離に対する耐性に加え、基本距離における底力の有無を明確化させて繁殖馬選定の基準にしようとする理念を具現化した形。
だが、今年はともかく、高速馬場でスピード型の馬が覇を競う近年の傾向から、距離そのものの持つハードルの高さは均衡し、三冠競走で最も短い距離の勝ち馬がNo.1という流れが定着しつつある。
ヴィクトワールピサやゴールドシップ、メイショウサムソンがそう。
牝馬の場合、二、三冠馬がどんどん登場するような時代になったから、桜花賞は可憐なイメージ以上に絶対不可欠な要素となり、格は年々上がっている。
そんな重要な一戦に、今年捉えどころのないメンバーが揃った。
3戦続けて快時計で駆けた馬。中山で一発を目論む才能もちらほら。
変則開催にもめげず結果を出し続けた馬や、京都でしか走ったことのない無敗馬らも参戦。
ただ2月時点で、2歳王者の動向を除けば、あとはトゥザワールドがトライアルでどうなるかだけが気になるのみで、ここの勝ち馬はもう眼前にいるという見立てがあったのも確か。
評価微妙だった暮れの2大ステージの勝ち馬も、それぞれ最重要トライアルで2着だったから、ひとまず方向性は定まっていった。あとは、どの馬の可能性を信じるか。
可能性という観点では、距離未経験の馬にも寛容なのが皐月賞。
イスラボニータ、ロサギガンティア、アジアエクスプレス。
いずれも美浦所属の重賞馬。本質を除けば適応範囲内の競馬だ。
もっと言えば、近10年でロゴタイプなど4頭の2000未経験馬が制していることを重視すると、この3頭は有力候補と見ることさえできる。
今週も蛯名騎手を追いかける。
イスラボニータ唯一の敗戦をどう評価するかは、案外難しい。
牡馬としては切ない結果だし、一方で速い上がりの競馬ばかりで着差が小さい割に連勝が続いているから、特殊で強烈な末脚に屈した時以外は、むしろ勝負強さを見せたとも言える。
血統の印象に見合ったここまでの戦績からは、まだ底力を出し切っていないとも推測できるし、勿論傾向のはっきり出ている父のジレンマが優勝を阻む最大の障壁となることを支持する根拠にもなる。
コーナーさえきっちり回ってくれば、自ずと結果を残せそうな雰囲気は、他馬の本番までの過程を見る限り、上位評価されて当然。
妙に内の枠を引いて万一の雨は怖い要素にもなりうるが、先行力は大きな武器。
今年の牡馬路線は、こういう出し入れが主体の競馬となるだろう。全ての長所を今回は支持する。
対抗はトーセンスターダム。あのズブさは次戦の展望に繋げる最高の武器となると考え、軸馬として推奨する。